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第10話『学園長ローズマリー』

 連れてこられたのは教員たちの研究室、――の地下だった。

 地上の研究室は研究室と言っても、教員それぞれに与えられた自室の意である。

 実践的な魔導の研究や実験を行うのは、この地下の研究室ということだ。

 学園長は私を落ち着かせるためか、そんな話を聞かせてくれた。

 だけど、私の本音としては早く要件を言って欲しい。

 怒ってるわけじゃなさそうなのが逆に不気味だ。叱られるだけじゃ済まない話ってこと?


 地下の廊下は無機質で、学園長の赤茶色の編み込んだ髪がとても優雅に際立っていた。

 時折、白衣を着た人たちとすれ違う。ジャンの言う通り、怪しげな研究員が闊歩しているようだった。

「どうぞ、お入りください」

 突然立ち止まった学園長が指し示す通りに、私は地下の一室へと足を踏み入れた。


 最初に目に入ったのは、台座だった。その上に何やら宝石のような石が取り付けられている。

 さらにその奥に目をやると、映写機で映画を映し出すときのようなスクリーンがあった。

 ……いや、よく見ると、このスクリーンそのものが機械になっている?

 王国の中央ではブラウン管に映像を映し出す技術が研究されているとは聞くけれど、こんな機械を見るのは初めてだった。


 状況を整理しよう。まず学園長は、名前を確認したうえで、私をここに連れてきたのだ。

 つまり私個人に用があるということになる。

 そして、私は今日が転入初日だ。

 さすがの私もまだ、やらかしたことと言えば、転入テスト中に魔法で壁を破壊してしまったことくらいで……。


 ううっ……、やっぱり叱られるのかな。

 きっとこの台座の石に触れると身体中に電流が流れ、きちんと反省するまでスクリーンで教育映像を観せられるのだ……。

 そうなる前に、まずはしっかり謝らないと! 誠意を見せるのよ、フローリア・ローレンス!


 寸刻ののち、私は意を決して口を開き、学園長に頭を下げた。

「あ、あの、学園長! 申し訳ありませんでした!」

「はい? 何がですか?」

 はっきり謝罪内容を述べよということか……。

「転入テスト中に、ビリーマン教授の合図を待たずに魔法を発動させてしまったうえに、部屋の壁に穴をあけてしまって――」

「ああ、そのことですか。問題ありませんよ。

 壁はもうすでに直しましたので」

「いや、そんなわけには! せめて弁償をさせてください!

 お金はないですけど、なんとか働いて、…………え、直った?」


 いやいやいや、あれからまだ2時間も経っていないはずだ。

 修理業者をすぐに呼んだとしたって、無数の穴が瞬時に直るはずがない。

「ええ、この私が魔法のステッキでちょちょいのちょいと」

「いやいや、そんなわけ……」

「あ、もちろんステッキは冗談です!

 さすがに34歳にもなってステッキというのも恥ずかしいですし……」


 私が突っ込みたいのはそんなところではない。

 いくらここが魔導学園であり、魔導の心得がある者がいると言っても、基本的に魔法は壊すより直すほうがずっと難しいはずだ。

 ましてや、今の言い方だと一瞬で直したかのようだけど……、一体何者なのかしら、この人。

 いや、学園長なのは分かっているけれど。正直、得体の知れない人ね。


 閑話休題。

「でも、それなら一体なんの御用でしょう?

 私はここに転入してきたばかりで何も分かりませんが……」

「ああ、すみません。

 お友達には聞かれたくない話かと思って、黙って連れてきましたが、不安にさせてしまったようですね。

 率直に申し上げさせていただくと、フローリアさんには我々の研究に協力をしていただきたいのです」

 学園長は深々とお辞儀をしながら、私にそうお願いした。

 最初に見たときは如何にも魔導師という雰囲気で、気難しい人のように感じたけど、意外と礼儀正しい人だった。でも――、


「研究……? それこそ私なんかじゃ、なんのお役にも……。

 ……それともあるいは、私が"魔女"だからですか?」

 ジャンの言う通り、この学園で"古の魔女"を復活させる研究をしているのなら、"魔女の因子"を持つとされる私を調べることで得られる手掛かりもあるだろう。

 本当は私も、その可能性にはジャンの話を聞いたときから気が付いていた。

 だけど、それを認めれば、私が実験動物モルモットにされる未来が見えてしまって、恐ろしかったのだ。


「正直に申し上げれば、それが一番の理由です。我々は"魔女"に関する情報が少しでも欲しい。

 しかし、それを差し引いても、あなたの転入テストの結果には興味があります。

 あの結界はAランクの出力量までは貫通を防ぐはずなのに……」

「Aランク? 出力量?

 すみません、私本当に何も知らなくて……」

「ああ、こちらこそすみません。知らないのは無理もありませんよ。

 魔力を5つのステータスでそれぞれランク分けするのは、当学園が独自に生み出した基準ですから」


 学園長が説明してくれた、魔力をランク分けする5つのステータスとは、以下の通りだ。


『技能指数』。魔法の熟練度を示す指標のこと。

 高い技能指数を持つ魔法使いほど、より高度な魔法を発動できる。

『精度指数』。魔法の扱いの正確性を示す指標のこと。

 高い精度指数を持つ魔法使いほど、より自由自在に魔法を発動できる。

『出力量』。魔法の威力や効果の高さを示す指標のこと。

 高い出力量を持つ魔法使いほど、より効果的な魔法を発動できる。

『拡散力』。魔法を拡散できる範囲を示す指標のこと。

 高い拡散力を持つ魔法使いほど、より広範囲に魔法を発動できる。

『容量値』。魔法を扱うための体力や持久力を示す指標のこと。

 高い容量値を持つ魔法使いほど、より多くより長い魔法を発動できる。


「それで、私の魔力の出力量は、Aランクを超えていると?」

「Aランクの上はSランクです。あなたの魔力にはそれだけの力が込められている可能性があるのですよ。

 それを正確に測るのが、今目の前にある魔導石です」

 そう言って学園長が指差したのが台座の上の、宝石のような石だった。


 続けて学園長は言った。

 魔力を持つ者がその魔導石に手を触れると、目の前のスクリーンにステータスが表示されるのだと。

「まずはその石に触れてみてください。話はそれからです」

 ここまでのやり取りだけでも、彼女は、――学園長はその正体はともかくとして、信用していい女性だと感じる。

 だけど、こんな得体の知れないものに触れてしまって、本当に大丈夫なのだろうか。

 もし私の中に、常人では考えられないほどの魔力が込められているのなら、魔導石に触れることで何か良くない反応が示されることだってあるんじゃ……?


 不安で手が止まる私を、学園長は優しげな笑みで見守ってくれていた。

 大丈夫だから安心しなさい、……そう言われているような気がした。

 その笑みに応えるように、私は覚悟を触れてその魔導石に触れる。


 一瞬、まるで生気を吸われたかのような感覚に襲われたが、軽い採血のようなものだと心は理解していた。

 そして、その直後、目の前のスクリーンに、私の魔力のステータスが表示される……。

「これは……、素晴らしい!

 予想はしていましたが、それを上回る結果です!」


『技能指数』:Sランク

『精度指数』:Sランク

『出力量』:Sランク

『拡散力』:Sランク

『容量値』:Sランク


 そう、私の魔力の5つのステータスは、すべてSランクだったのだ。

 この状態を『5S(ファイブエス)』と言うのだと、学園長は教えてくれた。

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