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第62話 弓矢と十字架

 フレデリカの最高の魔法──「オプクリスタス・スティルペース」は、舞台全体に、闇の巨大食虫植物を生やす魔法だった。


 ガバアッ


 私の真後ろ──頭上で、巨大食虫植物が大きな口を開いた。


 バクン!


 私が間一髪(かんいっぱつ)、右に()けると、今度は別の巨大食虫植物が、横から私に喰らいつこうとした。


「ルフト・グラディウス!」


 私は杖を魔法の剣に変化させ──。


 ズバアッ

 

 巨大食虫植物の(くき)を切り裂いた。これは、ナギトの魔力模擬刀(まりょくもぎとう)から発想を得た、新しい魔法だった。


 しかし──ガバアアアアッ


 またしても、今度は(なな)め右から、食虫植物が大きな口を開ける!


 ズバアッ


 (くき)を切り裂く。しかし今度は、高さ1メートル弱の食虫植物が、私の腕にかじりついた。


「くっ」


 私は魔法の剣で、それを切り裂く!


「苦労しているね」


 フレデリカは笑った。


「では──収束!」


 フレデリカが唱えると、食虫植物たちは(くき)を伸ばし始め、私を取り囲んだ。

 

 (くき)が私の体を(しば)りつけつつ、どんどん1ヵ所に収束してくる。


(これは!)


 私は食虫植物たちの(くき)に縛り付けられ、持ち上げられた。


 ハッとしたときには、もう、私はかなり高い位置にいた。


 舞台上の食虫植物が、1本の巨大な植物となっていた。どうやら──それが巨大な十字架のような形になって、私を(はりつけ)にしている。


 舞台に落ちている影で、それが十字架の形だ、と分かる。


 十字架からはつるや茎が出て、私の手首や足首を(しば)っていた。


(身動きが──できない)


 私は上空から、無観客のスタジアムと、フレデリカをながめることとなった。


 地上20メートルといったところか。


「残念だ」


 フレデリカは舞台上から、十字架に磔刑(たっけい)にされている私を見上げた。


「残念だよ、ミレイア」

「言いたいことがあるようね」

「お前との戦いが、これで終わってしまうなんて」


 フレデリカは首を横に振った。


「こんなに楽しい戦いを繰り広げていたのに、もう試合は終わってしまいそうだ。楽しい時間は、どんどん過ぎ去ってしまう」

「勝つ気まんまんね」

「ミレイア、お前はもう身動きすらできない。お前はもう勝つことはできないだろう。私の方が強かった」


 するとフレデリカは──宙から弓矢を取り出した。別空間に、武器をしまい込んでいたのだ。


「これは大魔王が使用していた『エクスピアティオ』という弓。そして『ファブラ』という矢だ」

「エクスピアティオは古代語で『(つぐな)い』、ファブラは『神話』という意味ね」

「その通り。さすがエクセン王国の元聖女、勉強しているな」

「何を(つぐな)ってくれるのかしら」

「……すべてだ」


 フレデリカは弓を引き絞った。ファブラの矢を放とうとしている。


「お前は10秒後に死ぬ」


 ギリリリリ


 ブオオオオオオッ


 ものすごい音とともに、弓から矢が発射された。


 矢は光線となり、私目がけて向かってくる。


防御壁(ぼうぎょへき)!」


 私は唱えた。


「ハアアアッ」


 私は魔法の防御壁(ぼうぎょへき)を作り上げ、矢を防ぐ。


 接触(せっしょく)


 私の魔法の防御壁(ぼうぎょへき)とファブラの矢が空中で接触(せっしょく)し、うなりを上げて均衡(きんこう)した激しい音を出している。


 私の防御壁(ぼうぎょへき)がファブラの矢の貫通(かんつう)を防ぎ、ファブラの矢は貫通(かんつう)しようとしているのだ。


 ガガガガガガ


「勝負は、どちらに」


 フレデリカはつぶやくように言った。


 私の防御壁(ぼうぎょへき)には──ヒビが入った。


 ファブラの矢は貫通(かんつう)──!


 しなかった。


「ううっ!」


 フレデリカは声を上げた。


 ファブラの矢はそのまま力を失くし、地面に落ちた。


「そ、そんな」


 フレデリカは呆然として、上を見上げている。


 その途端(とたん)、食虫植物の(たば)でできた十字架はゆるみ、消え去ってしまった。


 タッ


 私は舞台上に降り立った。


 フレデリカの精神と、あの食虫植物たちは(つな)がっているらしい。


 フレデリカは、ファブラの矢を防がれたことが、よほどショックだったようだ。


 なぜ、ファブラの矢の勢いが落ちたのだろう? 私には何となくわかった。彼女は何かを、「(つぐな)わなければ」ならなかったからだ。


 その心の奥底の闇が、いや、逆に言えば「良心」が、彼女の矢の勢いを(とど)めたのだ──。


「ただいま」


 私はフレデリカに言った。


 そして私は、聖女の杖を(かか)げ、唱えた。


「スパイラリ・デンドロン!」


 それは、私の最高の魔法だった。

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