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第54話 準決勝第2試合②

 世界学生魔法競技会第2試合が続いている。


 フレデリカの競技パートナー──ゲンマが光り、宝石となって地面に落ち、泡となってかき消えた。


 サイモンは地面にうつ伏せになって、失神している。


 ジョゼットは杖を構えた。フレデリカは──杖を持っていない。


「アイスバーン・テリオス!」


 ジョゼットは唱え、杖を振り払った。これは──氷属性魔法の最上級技だ。


 ドオオオッ


 魔法が地面を(こお)りつかせつつ進み、フレデリカに直撃した。


 しかし──フレデリカの前で、水の魔法は消滅(しょうめつ)してしまった。フレデリカの「気」が、魔法をかき消したのだ。


「ジョゼット、お前との試合を楽しみにしていた」


 フレデリカは歩きながら言った。ジョゼットは一歩一歩後退する。


「我が校の生徒が、どの程度の能力をもっているのか、(はだ)で感じることができる良い機会だからな」

「あまりナメないでくださいね」

「どういった教育的指導がお好みかな」

「逆に、私が指導しましょうか?」


 ジョゼットは後退を止めた。


「アルキナティオ・イプモティスモ!」


 ジョゼットがそう唱えたとき、周囲の雰囲気が一瞬にして変化した。ぼんやりした、というか、霧が出てきたのだ。


「古代語で、アルキナティオ──は幻覚の意味だったな」


 フレデリカは言ったが、ジョゼットは動じなかった。


「そうです──でも、気付いたときにはもう遅い」


 草原の草は勝手に()れ、伸び、フレデリカの足首に巻き付いた。


「ほう」


 フレデリカは一歩前に歩こうとする。しかし、彼女の足には草がからみつき、もう歩けなかった。


「なるほど」

「試合を終わりにしましょう」


 フレデリカの後ろ!


 いつの間にか草が寄り集まってできた、緑色の巨人が立っていた。


 巨人の手には、魔法でできた(おの)! ジョゼットは言った。


「この魔法の(おの)には殺傷能力(さっしょうのうりょく)はありませんが、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)と同じ、『(しび)れ効果』があります」


 これは──幻ではない。幻のように見える現実の出来事なのだ。


 ブオン


 緑色の巨人は、躊躇(ちゅうちょ)なくフレデリカの背後に、魔法の(おの)を振り下ろした。


(ああっ!)


 私は思わず、声が出そうになった。


 フレデリカは後ろも振り向かず、右手を()げ、右人差し指を立たせた。


 ピタアッ


 その人差し指が、(おの)の振り下ろしの軌道きどうを止めてしまった。


 フレデリカの人差し指が、緑色の巨人の(おの)(やいば)と、ピッタリくっついている状況だ。まるで、磁石のように離れない。


「ど、どういうこと?」


 私は思わず声を上げた。


「くっ、うっ!」


 ジョゼットがうめく。緑色の巨人を(あやつ)るのに、魔法を込めているのだろう。しかし、緑色の巨人は(おの)を宙で(とど)めたまま、動けない。


「エクスプロジオン!」


 フレデリカが唱えると──。


 バーン


 緑色の巨人の(おの)ともども、爆発して、(くだ)け散ってしまった。


 フレデリカの爆発魔法だ。


 フレデリカにまとわりついていた草も、消滅(しょうめつ)した。


「ジョゼット、面白い技だったよ」


 フレデリカはニッコリ笑った。ジョゼットは真っ青な顔で、フレデリカを見た。


「さてと」


 意外にも、フレデリカの歩いていった先は、ジョゼットのほうではなかった。


 ジョゼットの競技パートナー……弟のサイモンのほうだった。


 彼はまだうつ()せになって、失神している。


「や、やめて」


 ジョゼットは声を上げた。


「お、弟はもう失神しています! 彼に手を出すのはやめて」

「手加減はしない。それがフレデリカ流だからね」

「フレデリカ様! 弟だけは──」


 ジョゼットは懇願(こんがん)したが、フレデリカは唱えた。


「雷よ、私に逆らう者を(さば)け! アストラペ・ライトニア!」


 すさまじい勢いで、空から雷が落ちてきた。


 バーン!


 私は目を丸くした。


 サイモンの上に、素早くジョゼットが(おお)いかぶさっていたのだ。


「何?」


 フレデリカがいつになく驚いた声を上げた。


 ジョゼットの背中は、黒焦げになっている。雷魔法で背中を()たれたのだ……火傷(やけど)では済まない状態かもしれない。


「フフフッ」


 ゆらりとジョゼットは立ち上がる。


「フレデリカ様……フレデリカ様……。これが命をかけて戦う、ということです」

「ほう」


 フレデリカは一歩後退した。


「何をする気だ?」

「あなたの魔法を研究しておりました。──サルヴェイション・ハンド!」


 ジョゼットは唱えた。


 フレデリカの頭上に、巨大な魔物の手が落ちてきたのだ!


 これは──フレデリカの魔法だ。それをジョゼットが使用した。


 ビキビキビキ


 立っているフレデリカの頭上で、ジョゼットのサルヴェイション・ハンドが空中停止して見える。


「これは驚いた」


 フレデリカは冷や汗をかいている。


「私の魔法を、自分のものにしていたとは」


 フレデリカが頭上に防御壁(ぼうぎょへき)を作り上げ、サルヴェイション・ハンドの落下を防いでいるのだ。


「ううおおおお!」


 ジョゼットは杖に力を込め、声を上げた。


つぶれろおおおっ! フレデリカアアアアッ」


 ズンッ


 そんな音とともに、ジョゼット版サルヴェイション・ハンドは、地面に落下した。


 フ、フレデリカは?


 つ、(つぶ)れた? まさか? しかし、次の瞬間──。


 ゲシイッ


 そんな音がして、「あぐ」というジョゼットの声が聞こえた。


 ジョゼットの後ろには、いつの間にかフレデリカがいた。彼女はジョゼットの首筋に、魔力を込めた手刀を放っていたのだ。


「そ、そんな」


 ジョゼットは地面に両膝(りょうひざ)をついた。


「高速移動で、お前のサルヴェイション・ハンドを脱した。そして急所である、首筋への手刀──。魔導体術(まどうたいじゅつ)だ」


 フレデリカは、冷たい目でジョゼットの背中を見下ろしながら言った。


「ジョゼット、今の怒りは良かった。今のお前の怒りが、私の理想だ」

 

 ジョゼットは失神している。


「審判長! これ以上は危険です!」


 私は声を上げた。


 審判長があわてて、魔導拡声器(まどうかくせいき)に向かって声を上げた。


『8分13秒、フレデリカ・レイリーンの勝ちでございます! おい、早く治癒魔法を!』




 試合は終わった。


 ジョゼットとサイモンは目覚め、白魔法医師の治療を受けている。


 私は、白魔法医師たちに文句を言った。


「もっと早く、サイモンを診察するべきでた。サイモンは気絶していたんですよ」

「うむ……」


 白魔法医師長はうなずいた。


「そのことについては、我々も反省している。しかし、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で攻撃を受けた場合は、それが致命的な怪我、状態と見なすのか、判断が難しいところでな」


 それにしても……。


 私はフレデリカのほうを見やった。フレデリカは馬車に乗り、帰り支度(じたく)を始めている。


(何という強さなんだろう……フレデリカ)


「ジョゼット、大丈夫?」


 私はジョゼットに言った。ジョゼットは、座って弟の肩を抱いている。


「大丈夫です」


 ジョゼットは(つか)れ切ったように言った。


 彼女の肩から背中には、大きいタオルがかけられている。本当は背中は黒焦げであり、まったくひどい状態なのだ。


 早く、病院で診察しないと……。


「姉ちゃん、ごめんね。役に立たなくって」


 サイモンはうなだれながら言った。


「何も言わなくていいの」


 ジョゼットは弟の頭をなでた。


「私たちは、一生懸命戦ったのだから」


 そうだ。2人はすべてをかけて戦った。


「ミレイアさん」


 ジョゼットは私を見上げて言った。


「決勝戦、どうかフレデリカ様に勝ってください」


 私はそれしかないな、と思った。フレデリカを乗せた馬車は、もう草原の向こうのほうに見える。


 草原のおだやかな優しい風が、ジョゼットとサイモンを包んでいた。

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