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第16話 その頃、ジェニファーは?④

 スコラ・シャルロ魔法競技会予選──。


 ミレイアとナギトが、ゾーヤとランベールに勝利したその1時間後。


 シャルロ西部、アルダマールの森では、予選B組の戦いが始まろうとしていた。


 ジェニファーとゲオルグ組、そして聖女コースのルチアと勇者コースのバナード組の対決だ。


「相手はルチアとバナードのはずよね? グラーズン先生の情報だと」


 ジェニファーは歩きながら、ゲオルグに聞いた。


「間違いなく、その二人かと……ククク……」

「で、さっきあなたが放った、情報伝達魔法は、ルチアとバナードに届いた?」

「ああ。今頃、彼らの目の前には、光の文字板が表れている。そして『地図上の×印のところで会おう』と示されているはずだ」


 2時間後──。ジェニファーとゲオルグは、地図上の×印の場所──庭園広場にたどり着いた。地図は、馬車に乗ったとき、御者(ぎょしゃ)の社会科の教師、アルベラーダ先生に手渡されたものだ。


「あっ、いたわ」


 ジェニファーはつぶやいた。

 ルチアとバナードは周囲をうかがっている。ルチアは背が低い、短い髪の毛のかわいい女の子だ。バナードも、それほど体は大きくない。


「お二人とも、お元気?」


 ジェニファーが作り笑いで言う。

 ルチアは聖女の杖を構え、バナードは魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を背中の(さや)から引き抜いた。

 戦闘態勢だ。


「あら、物騒(ぶっそう)ねえ。今日は二人に良い話をもってきたのよ」


 ジェニファーが言うと、バナードは守るように、ルチアの前に進み出た。ルチアとバナードは、恋人同士である。


「もう勝負を始めようというのか。望むところだ」


 バナードはルチアの前に立って声を上げた。


「違う違う。これ、あげるわ」


 ジェニファーはカバンから何かを取り出し、ルチアに渡した。


「えっ?」


 ルチアは目を丸くした。


「何これ──あ、す、す、すごいわ!」


 ルチアに手渡されたものは、ダイヤモンドの指輪だ! 指輪部分には、「マルローズ・パパイ」と彫刻されている。


「うわぁ、有名職人のマルローズ・パパイの指輪じゃないの! 500万ルピーはする代物よ!」


(……ゲオルグ、あなたの情報通りね。ルチアは宝石や装飾品を好むって)


 ジェニファーはゲオルグに耳打ちした。ゲオルグが調査したらしい。


「で、バナードにはこれ」


 今度はゲオルグが、バナードに(さや)のついた小型ナイフを差し出した。


「うっお……」


 バナードの目が輝きだした。


「ほ、本物か! 名匠(めいしょう)ラザン・ガイドウの小型ナイフ『ジャバラン』じゃないか! す、すごいぞ」


(バナードは武具(ぶぐ)マニア。これもゲオルグ、あなたの情報通り)


 ジェニファーがゲオルグに耳打ちする。

 そしてジェニファーは、胸を張って二人に言った。


「お近づきのしるしに、二人にあげるわよ」

「えええええっ?」


 ルチアとバナードは同時に声を上げた。


「で、だな」


 目を丸くしているルチアたちに、ゲオルグが言った。


「僕たちに、『勝ち』をゆずっていただきたい」


「い、いや、それとこれとは……」とバナードは困惑気味だ。


(つーか、指輪もナイフも、ニセモノなんだけどね)


 ジェニファーは伸びをしながら、心の中で笑った。


「でね、私、グラーズン先生と仲が良いのよね」

「え、ええ」


 ルチアは自分の指にダイヤモンドの指輪をはめて、うっとりしながら生返事(なまへんじ)をした。


「グラーズン先生に頼んだのよ。『来年、3年生になった時、ルチアとバナードを聖女、勇者の特別選抜(せんばつ)コースに入れてやって』ってね」

「は、へ?」


 ルチアとバナードは、口をあんぐり開けた。


 聖女と勇者になれるのは、狭き門。しかし、特別選抜(せんばつ)コースに入れば、聖女、勇者になれる道が開けるのだ。その特別選抜(せんばつ)コースも、選ばれた生徒しか入ることができない。


「ほ、本当か? き、君たちに『降参』したら、特別選抜(せんばつ)コースに入れるのか? どうして君たちが、グラーズン先生とそんなことを決められる権限がある?」


 バナードは恐る恐る聞いた。


「私はエクセン王国王子の婚約者。軍隊指揮官。スコラ・シャルロに多額の寄付もしている」


 ジェニファーは得意気にいった。


「今のダイヤモンドやナイフ(ニセモノだけどね)を見た? 普通の生徒じゃ、手に入らないって分かるでしょ。私はグラーズン先生と仲が良いし、スコラ・シャルロの先生は、全員、私の言うことを聞くのよ」


 ジェニファーは大ウソをぶっこいた。グラーズン先生と仲が良い、ということ以外は。


 ルチアとバナードは顔を見合わせている。


「ジェ、ジェニファーの噂は本当だったのね。エクセン王国王子の婚約者って」

「17歳で、軍隊指揮官って、すごすぎる……」

「そういうわけで──、グラーズン先生に話をしてあげるわよ。あの先生、特別選抜(せんばつ)コースの担当でしょ。元下級の勇者だったし」


 しかし本当は、特別選抜(せんばつ)コースの生徒を選べるのは、マデリーン校長だけだ。


 ジェニファーはため息をつき、腕組みをしながら言った。

 

「私は、無傷で決勝に出たいだけよ。えーっと、他にも希望者が多いから、早く決めないと……」

「あ、ああ……」


 バナードはうめいた。彼は平民だった。父は勇者を目指す息子を、誇りに思っている。勇者になる道が開けたら、何と喜ぶだろうか。

 ルチアは貧民出身だ。母親は聖女を目指していたが、結局主婦となった。娘に大きな期待をかけている──。


「こ、降参します!」


 声を上げたのはルチアだった。


「まいりました! 私たちの負けですっ! お母さんにどうしても、私が聖女になった姿を見せてあげたいから!」

「お、おい、ルチア……」とバナードは弱々しい声で言った。

「降参しますから、私をグラーズン先生に、特別選抜(せんばつ)コースに入れてもらえるよう、言ってもらえませんか」

「あらあら(やっぱりバカだわ、このルチアって子)」


 ジェニファーはニヤリと笑った。


「素早い決断だこと。でも、私に忠誠(ちゅうせい)をちかわなきゃダメよ。地面に手をついて、『ジェニファー様、まいりました』と言わないと」

「うっ……ぐっ……」


 バナードはまたしても、うめく。


 ルチアは懇願(こんがん)するような目で、恋人のバナードを見た。

 ──バナードが動いた。すべては恋人、ルチアのため──。


「……ジェニファー様……。ま、まいりました!」

「私たちの負けよ! ジェニファー様! だからお願い! 特別選抜コースに! グラーズン先生に話をつけてください」


 ルチアとバナードは、地面に手をついて懇願(こんがん)した。


(あああ……)


 ジェニファーはぞくぞくぞくっと鳥肌(とりはだ)を立てていた。快感を感じていたのだ。


(たまらない……たまらないわ。この背徳感(はいとくかん)……。人間に忠誠(ちゅうせい)(ちか)わせ、無力にさせる。これこそ、私が求めているもの!)


 ルチアとバナードは、犬のようにジェニファーの足にすがりついた。ジェニファーは、「ホホホ、良くってよ!」と笑っている。


(ま、特別選抜(せんばつ)コースは、5000万ルピー払うか、成績が全てSランクじゃないと絶対選ばれないけどね。平民でバカのこいつらじゃ、無理でしょ。ま、グラーズンにもう1度、話しだけはしといてあげるけどね。話だけは)


 ジェニファーは、ルチアとバナードを虫でも見るような目で見た。


 その時、ゲオルグの魔導(まどう)通信機が鳴った。


「今はジェニファー様が予選の最中だが」とゲオルグは言った。 

『君はゲオルグか? ジェニファー様を呼んでくれ!』


 魔導(まどう)通信機から、聞き覚えのある声が鳴り響く。


「おや? これはこれは、エクセン王国の副隊長、ゴーバス殿。ジェニファー様なら、そこにおられます」


 ゲオルグは音声を拡大して、ジェニファーに聞かせた。


『エクセン王国各地で魔物が入り込み、被害が出ている。早く帰ってください、ジェニファー様!』


 ゴーバスが声が聞こえてくる。ジェニファーは舌打ちした。


「しょうがないわね。ま、予選は勝ったし」

 

 ルチアとバナードは、ジェニファーの足にすがりついている。

 

 オホホホ! ジェニファーは高笑いした。


 自分の中に、悪魔の心が芽生えつつあるとも知らずに……。

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