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第14話 スコラ・シャルロ魔法競技会 予選②

 スコラ・シャルロ魔法競技会、予選1日目の夜7時──。


 私とナギトは、洞窟の入り口付近で、()き火をした。()き火の中では、森で捕獲(ほかく)した大ウサギがセルクの大きな葉にくるまれて、蒸し焼きになっている。


 この予選では、食料の持ち込みは禁止だ。森で採れたものを調理するしかない。


「相手のゾーヤは、どんな女の子なんですか?」


 私がナギトに聞くと、ナギトは()き火に木の枝を入れながら言った。


「ゾーヤは気が強ぇ。貧困家庭の出身だよ。両親は離婚している。ゾーヤはアルバイトで学費を支払っているんだ」

「ああ……そうなんですか。でも、どうしてジェニファーとつるんでいるんですか?」

「ジェニファーは色々、物を配っている。ゾーヤにも与えているはずだ。ゾーヤは高額なものをもらえて、うれしいんだろ。──よし、焼けた」


 蒸し焼きにされた大ウサギの肉は、すっかり内部まで火が通ったようだ。


 パレックの葉を煮てとった塩を、ウサギ肉にかけて食べる……。


(ウサギ肉かあ……)


 私はちょっと躊躇(ちゅうちょ)した。あのかわいいウサギでしょ。うーん……。でも、明日の勝負に向けて、力をつけておかないと。


 えーい! 


 パクッ


「あ」


 私は声を上げた。


「お、美味しっ……! 美味しいです! 味が深い! 高級な鶏肉みたいに繊細(せんさい)!」

「そうだろ。お前が()ってきたヨモギとか、香草も詰め込んで蒸し焼きにしたから、臭みは完全に消え去っているはずだ」


 ナギトは胸を張った。私は、焼きウサギ肉を食べる手が止まらない。本当は食いしん坊な私……。


 私たちは、2匹丸ごと、大ウサギを食べてしまった。


「明日の話だがな」


 ナギトが言った。


「ゾーヤが相手だということは分かっている。場所は、地図の×印の場所。で、ゾーヤの競技パートナーだが……」

「分かるんですか?」

「多分、ランベール・ロデアルって男子だ。生真面目な野郎でさ。ゾーヤと仲が良いから、多分」

「あ、ランベール君は知ってます。勇者コースでは、かなり成績優秀だと聞いてます」

「ふーん、そうか。……オレは筆記試験がダメだからよ」


 デザートは森で()れたリンゴだ。私が洞窟近くで見つけた。少し青いけど、結構美味しそう。


 私はナギトにナイフを借り、リンゴの皮むきに挑戦した。……実は、リンゴの皮むきなんて、したことがない。料理全般(ぜんぱん)もしたことがない。


 聖女の仕事と勉強でいそがしかったから……。


 とにかく、何か役に立とう……あ!


(いた)ッ」

「大丈夫か!」


 ナギトは私の手を取った。


(あっ……ナギト)


 私の左親指からは、少し血が出ている。ナイフで親指を切ってしまったのだ。


 ナギトは、私の左親指に絆創膏(ばんそうこう)を張ってくれた。


「オレは武器を扱うからな。絆創膏(ばんそうこう)くらいは、常備してるのさ。おい、そのリンゴを貸してみろ」

「えー」

「えー、じゃねえよ。ほら、ほく見てみな」


 私はナギトに近づいて、ナギトの手元をよく見た。


「ナイフの刃元(はもと)に、親指を当てるんだ。リンゴの持つほうの親指の部分は、刃に当たらない部分に置く」

「あ、う、うん」


 ナギトの体温を感じる。


 ナギトはリンゴをくるくる回して、器用に皮をむいていく。


「リンゴの正面が、いつも前に来るんだ」

「……うん。分かった……」


 リンゴは2人で切り分けたけど、甘酸っぱくて、とても美味しかった。

 



「さて、寝るか」


 ナギトはあくびをしながら言った。


 私とナギトは、歯磨き用植物ゴムを(これは持ち込み許可されていた)()んだ。


 それから、洞窟内に草と葉っぱを敷きつめてベッドを作り、寝ることにした。




 次の日の朝、地図の×印の場所に行ってみた。


 洞窟から5キロ離れた場所にある。


 そこには立派だが古ぼけた城が建っていた。


 私とナギトは古城に入った。中は薄汚れている。廊下も部屋も、ほこりと土だらけだ。


 王の間は、2階の奥にある、広いホールだった。奥に王様と女王用の立派な椅子がある。


「ナギト君──待ちかねたぞ。勝負だ」


 少年の声がした。王座の後ろから、長髪の少年が現れた。


(あっ……ランベール・ロデアル!)


 その少年は、2年A組の勇者コースの生徒、ランベールだった。


「ランベールか。もう戦闘しようって?」


 ナギトはそう言いつつ、自分も背中の魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を引き抜いた。危険を察知したからだろう。


「いくぞ!」


 ランベールが走った!

 

 タッ


 ズバアアアアッ


 ランベールは、横に魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を払った。

 

 しかし、ナギトはそれを()けていた!


「ランベール! 気が早いヤツだ!」


 今度はナギトの攻撃だった。


 シャッ


 ナギトの狙いは正確だった。ランベールの右腕を、上から斬り下げた!


 ガキイイイッ


「な、なにいいっ?」


 ナギトは驚きの声を上げた。


 刃と刃がぶつかったのだ。


 間一髪(かんいっぱつ)、ランベールは自分の魔力模擬刀(まりょくもぎとう)により、ナギトの上段斬りを防いだのだ。


 魔力模擬刀(まりょくもぎとう)は、刃の部分が魔法の光でできており、体の一部を斬られるとそこに電撃が走る。命に別状はない。


「ハハハ! なかなか良い試合じゃないか!」


 女子の声がした。


 いつの間にか玉座の後ろに立っていたのは、長い黒髪の女の子だった。

 黒いローブを羽織った魔法使いコースの生徒──ゾーヤだ。


「ランベールはあたしの競技パートナーさ。ミレイア、しばらく見物といこう」


 ナギトがランベールの腹を蹴り上げる。


 ランベールは吹っ飛んだ!


「次はてめぇだ! ゾーヤ!」


 ナギトが向かった先には、ゾーヤがいた。


 ゾーヤは身構えたが、ランベールは魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を投げていた。その刃は、ナギトの足をかすめていた。


「くそっ」


 ナギトは片膝(かたひざ)をついた。


 恐らくナギトの(ひざ)に、電撃が走っているのだろう。


「ナギト! 私があなたを守る!」


 私は、ナギトの前に立ち、叫んだ。


 一方のランベールも、右腕を抑えている。


 刃と刃が重なった瞬間、右腕のどこかを負傷したのだろう。


「ゾーヤ! 二人は負傷しました! 今度は私とあなたが勝負よ」


 私は宙から、聖女の杖を取り出した。


 ゾーヤはニヤリと笑って、魔法使いの杖を身構える。


 ──戦闘開始だ!

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