世界で最も有名な美女スパイ、異世界転生する
異世界転生が思い通りになると思うなよ! というノリ皆さんお好きでしょうか。(笑)
何かそういうのも、最近流行だし、面白いかなと思い出来たのが今作です。
輪廻転生ってよくできたシステムだな~って思う今日この頃です。ではでは。
耳を突き抜ける、寒い風。背中から温もりを奪いとられ、おれはブルルと思わず身体を竦める。
あれ? ここはどこだ? おれは確か仕事中に倒れて。
病院のあの独特の匂いもしなければ、ベットの上でもない。そう。おれは先日、脳溢血で倒れて緊急入院したのだった。
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指先まで不自由な中、おれの聴覚だけは生きていた。
「もって後一週間だそうです。」
「そんな。回復する見込みないのですか? だから無理するなって言っていたのに・・・。」
「私を置いて先に死ぬなんて許さないんだからね! バカにい!」
母のすすり泣く声。最近、口もきいてくれない年の離れた妹。
ああ。おれは、家族に大切にされていたんだな。大切な事を最後に気づけて良かった。ありがとう。みんな。まさか20代で命を落とすとは思いもよらねえよな。
それが、最後に頭に残っている記憶だ・・・。
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再度問おう。ここはどこだ。そして、この身体は誰のものだ。
もしかして、異世界転生ってやつなのか。手を見やる。年の苦労が刻みこまれた、不格好な手。
時折、違和感を感じずにはいられない、鈍い感覚の腰。誤魔化しようもなく、おれの第2の人生は70オーバーからのようだった。
うん。詰んだわこれ。服すらまともに着ていない。寒さのあまり、身体に巻き付けたぼろきれを手繰り寄せる。
わずかばかりのぬくもりに思わず幸福感に満たされていく。
思いがけず、ホッコリしたおれは、取り敢えず、生きる為に周りを見渡した。当たり一面藁山。
視界の端に、何やら麻布の絨毯が見えるではないか。気になって絨毯をほどいてみた。
クルクルクルっと。あれ。何か重くね? 嫌な予感がよぎる。絨毯の中に重り・・・。ちょうど人の体重位の・・・。
奇しくもその予感は的中し、最後のひと巻きがほどかれた中から、あられのない姿の美女が出てきた。
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大きく高貴な瞳は、まるでこの世のものとは思えないくらいに妖艶で、その仕草は優雅で今まで多くの男から愛されてきたのだと思わせるほどだ。
彼女は何も言葉を発せず、おれに自身を抱き上げるよう、両手を広げてアピールをしてきた。
おれは自然に彼女を抱き上げると、先ほど気持ちばかりに作って置いた藁のベットへ優しく寝かせてやる。
ご老体のおれでも難なく抱き上げられる事が出来た事にひとまずホッとする。
「どうして、絨毯の中に裸で閉じ込められていたのですか? 災難でしたね。」
彼女は少し怯えた表情をしていたが、一息つくとすやすや眠り始めた。
おれは身体に巻き付けていたぼろきれの7割ほどを引きちぎり、腰布だけを残して、彼女の身体にかぶせてやった。
そう。ご老人は大事にするもんなんだぜ。
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*謎の美女視点・・・。
目を覚ますと、私は絨毯の中に裸体のまま簀巻きにされていた。何重かに巻かれ、自力で脱出はたいへんそうではあるものの、外気温が低いからか、冷気が肌を突き刺す。
この布の材質は麻だろうか。荒い材質で次第に全身に網のような跡がつき始めた。血液が澱んでいくのを感じる。
誰か助けてくれないだろうか。もし、助けて下さるのが男性なら、少しばかり夜の生活をご奉仕させていただくのも、悪くない。
おっと。その考え方は危険だ。前世は私の男好きにより、恋人にも絶縁され、2重スパイの罪で孤独な最後になってしまったのだっけ。
私は何か彼がしてこないか、自分らしからぬ考えに戸惑いながらも一瞬怯えながら、話しかけられても狸寝入りと決め込んだ。
1分。何もしてこない。5分。何やら温かい布を私にかぶせてくる。その後、彼からは何も接触してこなかった。
おかしい。私はずっと小さな頃から、大人がたじろくような見た目をもっている事を自覚していた。
今まで、誘いに乗って来なかった男など数えるほどしかいなかった。
なのにだ。何なんだ。この男は。もしかしてそっちの人なのか。
少しムッとしながらも、何もされなかった事に安心している自分がいる。
寒さのあまり、凍える手を擦り合わせる。先ほどから妙に手の感覚が鈍い。まるで軍手を2枚重ねで付けているようだ。
ヒヤリと汗が背中を流れ落ちる。
震える手で、ドクンドクンと脈打つ胸に手を当てた。ああ。世は無情だ・・・。
男たちを誘惑して来た豊かな胸はどこにもなかった。
鏡を見るまでもなく分かる。私は醜い老婆になり果てたのだ。東洋の書で読んだことがある。世界3大美女に数えられるかのお方も、老後は誰の目にもかけられず、野ざらしにされた骸骨と共に、醜く老いていったという。
情けなさのあまり、思わず嗚咽を漏らしてしまう。
悲しさは有る。しかし、心の中にはもう一つ理解できない感情が渦巻いていた。
*****
突き刺すような日差しに当てられ、開いた瞼をショボショボさせる。どうやら、もうすっかりお昼のようだ。
「お腹すいていませんか?」
みれば昨晩の男だ。なるほど、昨晩は暗くて良く見えなかったが、かなりご高齢らしい。いや。それは私も一緒か。
「少しばかり。昨晩は助けて下さりありがとうございます。所で、ええと。こちらはどこか、ご存知でしょうか?」
男は申し訳なさそうに苦笑しながら、ただ首を振り、にっこりと穏やかな笑みを浮かべながらパンを差し出してきた。
どうしたのかと聞くと、町で材木を運ぶ短期間の労働の賃金で私の分まで買ってきたらしい。
彼が小さな鍋で作ってくれた野草入りの牛乳粥は空きっ腹に良くしみた。
それから一週間たった頃だろうか。彼は日雇いの仕事を続けながら、腰を痛めた私を看病をしてくれた。
世話になってばかりでは申し訳がたたない。
「私にも何か手伝える事はないでしょうか。」
「実はもし可能でしたらなんですけど。お願いしたい事がありまして。」
彼は目を輝かせながら、これからの計画を打ち明けてくれた。
「ええ!? そのような事ができるのですか?」
彼が地面に書いてくれた図面を基に計画は勧められた。絨毯をほぐして麻紐にし、藁を紡いで編み笠というものを作った。
この寒い地方ならではの商品コンセプトにより、編み笠なるものは大ヒット。今では飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
低価格での販売ではあるが、ちりつも(?)とやらで、私たちは普通並みの暮らしができるまでになっていた。
月日が流れるのは早い。私の実年齢(精神)は彼には伝えていないが、彼も恐らく実年齢とはずれているのだろう。女性として見てもらえ無いのだけが口惜しいが、それでも彼は私を大事にしてくれている。
*****
そんな幸せな日々もどうやらここまでのようだった。私は脈がおかしくなり、呼吸が一日に何度も止まりそうになった。
「あなた、お願いがあるの。最後にお星様を見せて下さらない。」
彼は静かに頷き、優しく微笑みながらで私を抱きかかえ、お庭に連れて来てくれた。
「キレイ・・・。」満天のお星様が花びらのように咲き誇っていた。
それでも残念ながら、彼には最後まで思いを伝える事は出来なかった。
私を抱えている彼の手が徐々に冷たくなっていく。
最後の力を振り絞って、小さく息を吸うと、彼に告げた。
「私も、すぐにそちらに向かいます。ずっと一緒ですよ。」
この後、2人が言葉を発する事は無かった。
*****
*6年後
小さな村で育った私は、誰かを探し続けている。今日は隣町に来ているので、私はチャンスとばかりに四方を駆け回った。
両親からはぐれて、10分たった頃だろうか。大きな洋館の壁に男の子が楽しそうに落書きをしていた。
「何を描いているの?」
「雪避け帽子みたいなやつだよ。」
「あんたどこかであった事ある?」
「ないと思うけど。なんかお久しぶりって言いたくなって来ちゃった。」
「私の友達になりなさい!」
「いいよ。」
その後5年後・・・。彼らは村での評判のおませなクソガキ共とその名を轟かす事になろうとは、この時の2人に知るよしは無かった。
この作品は、実在の人物とは一切関係ありません。また、人の個性や異世界転生などをバカにした作品でもありません。
作者はキリッと伊達メガネを整えそう語ったのだった・・・。