表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/223

旅立ち(二)

 姉たちに連れられ宮殿の外に出ると、そこには何台もの馬車、数十名の騎士、数名のメイド、侍女や大臣たち、そして女王と王配が待っていた。頭を下げて待機する騎士、メイド、侍女、大臣の前を通り、女王と王配の待つ、白地に金の装飾が施された一等豪華な馬車(キャリッジ)の前へと行く。


 近くまで行くと、一緒に来た姉たちも順番に二人の傍に並んだ。

 ルシアナは一歩歩みを進め、一番手前にいる第四王女クリスティナに向き直る。両腕を広げる彼女の胸に飛び込めば、クリスティナは優しくルシアナを抱き締め返した。


「初めて私の髪を結ってくれた日のこと覚えてる? あの日、ルシーが褒めてくれたからコンプレックスだった癖毛が好きになったの」


 クリスティナは体を離すと、同じく波打つルシアナの髪に指を通す。


「私からのプレゼントは向こうについてからのお楽しみだよ。向こうで使ってね、ルシー」

「ありがとうございます、スティナお姉様。いつも時間を見つけては会いに来てくださったことが、塔にいた十五年も、このひと月もとても嬉しかったですわ」


 クリスティナは目尻を下げると、そっとルシアナの額に口付けた。


「ルシアナ、私のただ一人の妹。どうか元気で。あなたが健やかな日々を送れますように」


 最後にもう一度強く抱擁を交わすと、ルシアナは隣のロベルティナの前へと移動する。


「ルシー、ルシーが嬉しそうに笑ってくれたから、私はヴァイオリンを続けられたし、好きになったの。初めて一緒に演奏した日のこと、生涯忘れないわ」


 優しくルシアナの両手を握ったロベルティナは、その表情に寂しさを滲ませながらも、温かな微笑をルシアナに向ける。


「私のもう一つのお友だちを一緒に連れて行ってあげて。それで良ければ、たまに弾いてあげてね」

「ありがとうございます、ルティナお姉様。お姉様と二人、月明かりの下一緒に秘密の演奏会を行ったこと、わたくしも生涯忘れませんわ」


 手を離したロベルティナが、力強くルシアナを抱き締める。


「可愛い子。どうかあなたの道行が幸せで溢れていますように」


 涙を滲ませ額に口付けるロベルティナに微笑を返し、ルシアナはデイフィリアの前へと進む。

 デイフィリアは手を伸ばすと、そっとルシアナの頬に触れた。


「…………自分の思いを口に出すのが苦手で、よく一人でいた私の傍に……ルシーはいつも来てくれたね。まともに会話も続かないのに、それでも朗らかに笑いかけてくれたことが、とても嬉しかった。……そのままでいいと、そのままの私が好きだとルシーが言ってくれたから、私は自信が持てたんだ」


 目を細めて笑ったデイフィリアは、そのまま額と額を合わせる。


「私からは思い出の品を。遠く離れることになっても、貴女との絆も、愛情も、決して褪せはしない。それを忘れないで」


 頬に添えられた手に手を重ね、ルシアナは自らの頬をすり寄せる。


「ありがとうございます、フィリアお姉様。わたくしが塔へ行った日、初めてお会いした方がフィリアお姉様でした。握っていただいた手が、撫でていただいた手がとても温かくて、とても安心したんです。お姉様のおかげで、わたくしも勇気を持つことができましたわ」


 デイフィリアは嬉しそうに顔を綻ばせると、ルシアナの額に軽く口付けた。


「どうか貴女が貴女らしく過ごせますように」


 優しく抱き締めすぐに体を離したデイフィリアに、ルシアナはにこりと笑うと隣へと移動する。

 アレクサンドラは、力強い目でルシアナを見つめ、頭に手を乗せた。


「ルシーは慣例より遅れて塔へやって来たから、私と共に過ごした時間はとても短かったな。初めて会った日、吹けば飛びそうなこの子が、剣を振るえるのかと思ったものだ」


 頭を撫でながら目を伏せて笑うアレクサンドラに、ルシアナも笑みを返す。


「そんな私の心配をよそに、お前はお前なりの剣の道を見つけた。その発想力、臆することなく己の道を切り拓いていく姿に、先例に従うばかりが善ではない、私だからできることもあると、そう思うことができた。お前のおかげだ」


 アレクサンドラはルシアナの頭から手を退かすと、その手を差し出した。


「私からの贈り物はその馬車に載っている。私たちには必要ないかもしれないが、持っていて損はない。良ければ使ってくれ」


 差し出された手を握り、ルシアナは眉尻を下げる。


「ありがとうございます、アレックスお姉様。わたくしが自分なりの剣の道へ進めたのは、お姉様の助言があったおかげですわ。わたくしがトゥルエノの王女として、その立場に相応しい力を得られたのも、お姉様もおかげです」


 眉を八の字にすると、アレクサンドラは握った手を引き、ルシアナを抱き締める。


「どうか、変わらず愛に溢れた日々を送れますように」


 額に口付け手を離したアレクサンドラに、ルシアナは軽く頭を下げ、コンラッドの前へと進む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ