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旅立ち(一)

 シュネーヴェ王国から届いた親書は、シュネーヴェ王国現国王の甥であり、北方統一の功労者でもあるシルバキエ公爵レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと、トゥルエノ王国の王女との結婚を望むものだった。

 シュネーヴェ王国がこの婚姻で要求したものは、トゥルエノ王国にある最大の港湾であり商業都市でもあるネブリナでの自由貿易権と商会建設だ。


 その見返りとして、自国で大量に取れる魔石を際限なくトゥルエノ王国に送ること、武器や盾に使える北部でしか採取できない素材などを優先的に輸出することなどが挙げられていた。

 大陸随一の騎士国であり、他国から魔石を輸入しているトゥルエノ王国にとって、シュネーヴェ王国からの見返りはありがたいものではあったが、王女との婚姻を認めるほど魅力的な条件ではなかった。


 シュネーヴェ王国からの要求も婚姻関係など結ばずとも了承できる範囲内であり、相手側もそれは承知しているはずだ。背後に様々な思惑があることは理解しているが、それでも結婚を望んだことが釈然とせず、大臣たちは頭を悩ませた。


 しかし、そんな大人たちを尻目に、十八になって間もないルシアナは悩む素振りなくその婚姻を受け入れた。

 本人が了承しているのなら、と女王及び王女たちが賛同したことで、ルシアナとレオンハルトの結婚話は素早く進み、ひと月後にはシュネーヴェ王国へ旅立つこととなった。


「ルシー、ほんとに行っちゃうのー?」


 ベッドに腰掛けるルシアナの膝に頭を乗せ、クリスティナは唇を尖らせる。彼女の緩くウェーブがかった腰まであるピンクブロンドの髪を梳きながら、ルシアナは鈴が鳴るような声で笑う。


「あとはもう、わたくしが馬車に乗るだけですわ。スティナお姉様」

「やっと一緒にいられるようになったのに寂しいねぇ」


 髪が肩で切り揃えられている以外はクリスティナに瓜二つのロベルティナが、眉を下げながら隣に座る。そんな彼女を見て、ルシアナはふわりとした柔らかい笑みを向けた。


「たくさんお手紙を書きますわ。許可が下りましたら、通信装置を使ってお話ししましょう、ルティナお姉様」

「そぉれぇでぇもぉ!」

「さーみーしーいー!」


 ロベルティナの言葉にクリスティナが続き、ロベルティナは肩に、クリスティナは腰に抱き付く。


(わたくしは果報者だわ)


 姉二人の強い抱擁に優しい抱擁を返していると、扉をノックする音が部屋に響いた。


「えー、もー時間ー?」


 クリスティナはベッドから飛び起きると扉まで行き、「はーい」と返事をしながら扉を開ける。


「あーっフィリア姉様!」


 扉の先にいたのは次姉のデイフィリアだった。


「なんだ、スティナとルティナはここにいたのか」

「アレックス姉様も!」


 扉の陰から長姉のアレクサンドラも顔を覗かせる。

 ルシアナと同じ父譲りのホワイトブロンドが煌めくデイフィリアと、母と同じ燃えるような紅の髪を持つアレクサンドラが並ぶと、まるで若き日の女王と王配がそこにいるようだった。


(フィリアお姉様の御髪が短く、アレックスお姉様の御髪が長いから、余計そう見えるのかしら)


 長身も相まって、二人が並ぶと委縮してしまう者も多いが、クリスティナは気後れすることなく二人の腕を取り、部屋の中へと引っ張る。


「姉様たちもルシーに会いに来たのー?」

「それもあるが、準備ができたから呼びに来たんだ」

「えーっ早いー!」

「これでもぎりぎりまで引き延ばしたんだ」

「……これ以上は、母上たちが挨拶する時間がなくなっちゃう」


 アレクサンドラとデイフィリアの言葉に、クリスティナは頬を膨らませつつも押し黙る。


「本当にもうちょっとでお別れなんだねぇ」


 ロベルティナは寂しそうにそう呟くと、先に立ち上がりルシアナに手を差し出す。


「ありがとうございます、ルティナお姉様」


 ロベルティナの手を取り立ち上がると、ルシアナは自分より頭一つ分は大きい姉たちを見渡しながら、柔らかな笑みを浮かべた。


「それでは参りましょうか」

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