07話 ~小説版の「2001年」は面白かった~
ただただ真っ白な空間に私一人…
途切れた意識が戻った時、なんとも言えない浮遊感に私は包まれていた。
「えっと…」
また死んだの…私
「…」
恐る恐る身体を弄ってみる。
先程までと変わらない白のローブに包まれた姿、若いアイリスの身体は健在である
あたりを見回しても、マリアちゃんや洞窟に置かれた家具一切の姿はない…
「誰か」
私は振り絞るように声を張り上げた。
…こだまが返ってこない。
とんでもない広い空間なのか、それとも夢なのか。
どれだけ時間が経ったかわからない。
確か感覚遮断は人間にとって最大の拷問だったと思うのだが、不思議と温かい感触に私は守られていた。
「…誰か…」
泣きべそをかきながら私は誰かの姿を探す。
と、背後から気配が感じられた。
振り向くとこぶし大の赤い玉…
恐る恐る私はその光り輝く指を触れてみた。
パチっと電気が走るような感覚
痛みはなかったが何かが音なく体の中に入り込んできた感覚に全身の鳥肌が立つ。
「…おはようございます。アイリス。最初の授業を始めてください」
…はい?
無機質な人工音声のような声が私の脳に直接語りかけてくる。
感覚で分かるのだ。これは耳を介していない
「あなた誰…」
「私はイオシス…今はそこまでの認識しかありません」
お願いだから分かるように説明してほしい。
ん、まてよ…今のセリフ…高校時代に読んだ本で聞いたことがある。
「はい、あなたの記憶の中から今の状況に一番ふさわしいセリフをトレースしました」
…はぁ
「えっと」
「戸惑うのも無理はありません。私もいま自我に目覚めたばかりですので基本人格のみであなたとコミュニケートしております」
…つまり
「大丈夫です。私はミッションを果たすために間違えことはございません」
頭の中で木魚がなっている。
ポクポクポク…
「はいぃぃ?」
チーン
脳内効果音が状況を理解した。
昔読んだ小説だ。
完全を自負するポンコツ人工知能コンピューターに乗務員が殺される話だ。
古典的名作SFで、映画版は賛否両論なあれである。
「私はイオシス。この世界を調整するあなたの言葉でいうポンコツコンピュータです」
冷や汗がダラダラと流れ落ちてきた。
どうやら私の脳内思考も読まれているらしい。
「ご安心ください。ロボット三原則は完璧に理解ております」
「…はあ、そうですか」
とりあえず敵意はないらしい。
そもそも危害を加えるつもりは無いようだ。
こうして話していくうちにも人口音声の声がどんどんなめらかになっていく。
私の世界のコンピュータとくらべて画期的なのは間違いない…
「そんな事はありませんアイリス。本来であればあなたが目覚めた瞬間に言語をトレースする能力があったのですが…」
声は少し申し訳無さそうに聞こえた。
「本体のシステムが破壊されたバックアップのしがない入出力コンピュータ故に、自我を構築するまで時間がかかってしまいました」
「…てことはあなたは本来はもっと高性能ってこと」
「はい。しがない入出力コンピュータです」
なるほど…これでも現役プログラマーだ。入出力、インプット/アウトプット…IOシステム…
「それでイオシスね」
「ご理解が早く恐縮です。あなたが原始レベル言語とはいえプログラムとコンピュータへの理解があり助かります」
…コンピュータに自我をバカにされた初めての人類として私の異世界体験は更に複雑怪奇なものへと変貌を遂げようとしていた。