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06話 ~長い夏休みって飽きるよね、社畜社会人は~

数日が経ち、生活リズムも出来てきた。

特にやることもないのだが…

問題といえば魔法を使うと頭痛がするのと娯楽がないことぐらいだ。


異世界の話は楽しい。

何よりも仕事しないで食べられる。ニート最高である。


何もしていないというわけではない。

この数日でなんとか初歩的な魔法を使えるだけ私は進化を遂げたのだ。

「えっへん」

「…はい?」

っと、おもわず声に出ていた。

エリスさんが首を傾げていた。

いかんいかん…一人暮らしが長かったせいか…思ったことが声に出てしまう。

「いやぁ、初歩とはいえ全属性の魔法習得できたからね。ついつい誇らしく思ったのよ」

「さすがはアイリス様です」

そう言われると鼻高々である

ライター程度の火、うちわ程度の風、滴り落ちる程度の水、逆剥け程度の傷を治す生の力。

「うん…全属性完璧じゃん」

「…?」

「私が神官長やるから、エリスさんがアイリスになってよ」

私は軽口をたたいた。

「はは」

…まずい…エリスさんの目が座っている。

取りあえずそのバスケットボール大の火の玉は…マジで投げられると命にかかわるだろう…

「ご冗談は、これぐらいのマナの制御ができてから仰ってくださいね」

エリスさんは冷たく笑いながら私をジト目で睨んでいた。


「はぁ」

とりあえずやることがないというのは致命的である。

かといって積極的に誰かと交流する気にはなれない。

半ば警戒は融けつつある私の身の回りにいる「なんとか長」たちはともかく…

信者と呼ばれる老若男女の熱い視線は…痛々しくて怖い…

「ひまー」

娯楽がない…

「マリアちゃん、なんか面白い話して」

「へ、私ですか」

だいたいこういうときに餌食になるのは侍従長である。

私の身の回りの世話というのだから私の精神的ケアも彼女の仕事だ、多分。

勝手に推し認定決定である。

「…えっと…思いつきません」

「いや、恋の話とか、生い立ちとかなんでもいいよ」

マリアちゃんは心底困ったように身体をモジモジさせていた

「恋…ですか…私の身も心も、全てはアイリス様のものですから…」

だめだこりゃ…

一番親しみやすそうに見える彼女ですらこの有様である。


ニケとカミラ…衛生士長と近衛師団長を連れて私は洞窟を探景することにした。

信者が集まるスペースからだいたい50メートルぐらいの範囲は管理が行き届いているらしい。

明かりや空気の循環など、洞窟という空間にしては快適に過ごせる場所である。

「ここより内側が聖域と言われております」

カミラ君が(なら)された地面を指さしながら私に教えてくれた。

敬虔な信者のみが入れるスペースとのことである。

目に見える線が引かれているわけではないが、遠くに見えるかすかな明かりが洞窟の出口のようだ。

線が見える訳では無いが内と外ではたしかに雰囲気が違う。

外は洞穴(ほらあな)そのもの…苔とゴツゴツした岩がむき出しになっている。

一方「聖域」の内側は岩を切り出して直線的な加工が施されている。

「外の世界…」

「あまりおすすめしません…アイリス様はお目覚めになられたばかりゆえどんな穢れに外で吸い込んでしまうのかわかりませんから」

ニケ君が身を乗り出そうとした私を静止した。

まあ生まれたての身体といっても間違いない。もしくは長期入院後の病室…

牢屋?

出たいのは確かだが、ここは大人しく従っておこう。


石造りの神殿、そこそこ心地よいベット、一挙一投足に気を使ってくれる取り巻き達

ただあるのはそれだけ…うーん、病むわ


とはいいつつ転生者にはありがちな、いきなりモンスターに襲われるサバイバル生活とか、奴隷階級とかではないのは救いなのだろうか…


試しにみんなに戦いについて聞いてみたが、たまに帝国なる敵対組織がちょっかいを出してくる程度、強大なマナの壁…バリアのような機能で撃退されるらしい。

平和そのもの、それがこの洞窟の聖域の世界の全てということだ。


信者は日々マナの修行に研鑽し、聖典を読み漁り、「私」への祈りを欠かさない。

そんな修行僧のような生活を毎日送っているのだという


こりゃやっぱり刑務所だ。

娯楽の構築が急務…

私は心のメモのいのいちばんに書き留めた。


推し活とスマホがないというだけで人生暇なものである。

とりあえずこうして脳内で自分と自分の会話を繰り返していくだけの日々が一週間…

現代文明に生まれた自分にはやはり酷な生活である。

食事という食事も質素そのもの。洞窟の外で取れる野菜をエリスさん達が運べる量だけ外の信者から譲り受けて簡単に調理するだけ。

一度厨房に立とうと提案したらマリアちゃんに「私が用済みになります」とマジ泣きされた。


ああ、ひまぁぁぁなんですけどー


そんなときは生きてることに感謝しましょうね、私


いや、刺されて死んで、転生先が引きこもり生活も辛いんですけどーーーー


と私は心のなかでぐるぐる叫ぶ。


「…あっぁぁ」

暇になるとろくでもないことを思い出すものだ。

夜中に目覚めた私は素っ頓狂な悲鳴を上げた

「もうどうされたんですか」

マリアちゃんがあくびをしながら起きてきた。

あまりに心が病むのでマリアちゃんには同居人として同じベットに寝てもらっている。

嫁…じゃなかった、抱きまくら代わりである。

「いや…わかったのよ」

「えっ」

私もマリアちゃんも半分寝ぼけている。

「こないだから気になってた数字…私のスマホの番号だわ」

…そして私がホームから叩き落とされた飛び込んできた列車に書かれていた数字


「1946ね」


---------------------

Pass..OK

---------------------


突然、私の目の前が真っ白になった。

意識は、とっさに勝手に嫁認定したマリアちゃんをかばう動作を最後に途切れてしまった。

強烈な頭痛とともに私の世界がカラフルに染まり、浮遊感から空間が-

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