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05話 ~チュートリアルからして無理ゲーなんですが~

人生を返してくれ…そんな思いは一晩寝ると消えさっていた。

よくよく考えてみたら前世もろくな死に方をしていない…

(あが)められ、チヤホヤされ、何が悪い。

この世界を若い身体で生きるのも、いいじゃないか。


「(とはいえねぇ…わからないことだらけなのですよ)」

「アイリス様、顔色が悪いですが」

ニケ君が美味しそうに朝食のスープを(すす)りながら尋ねてきた。

…今は黙っていてほしい。

夢で「グロ注意」な自分の轢死体(なきがら)をイメージした後なのである。

「水で十分よ…食欲ないから」

私やこの洞窟に住む「信者」の健康を管理する身としては眉をひそめる行為だったのか、ニケ君が少し小言を言ってきた。

せっかくの肉を無駄にしてはいけませんと…いうことだが今は肉は特に受け付けない。

吐くよりはマシでしょうと開き直るとニケ君は渋々引き下がってくれた。

「(それにしても…まずい水だわ)」

ティーカップの水は無色透明で、味というものがない。塩素の臭いすらない水というのがここまで美味しくないとは…ドラックストアで売ってる精製水を飲んだような気分である。

「あの…お気に召されませんでしたか…」

おどおどとマリアちゃんが聞いてくる。彼女はいわば私の専属のお世話係だ。表情一つでなにか感じ取ったのだろう。

「いや…井戸水にしては味がないなと思ったのよ」

「井戸水じゃありませんよ」

マリアちゃんは石版を指さした。

「水は全てあの石版から放たれるマナから抽出されます」

「…は…?」

まてまて、ここが異世界だということを忘れていた。

「まさかとは思うけど…あの棺桶(石版)の水使ってるわけじゃないよね」

そう言うと隣でやり取りを聞いていたエリゼさんが笑う。

「どうでしょう」

「…」

私は引きつった。

「冗談ですわ。石版のマナから生活魔法で…」

エリスさんは指を一本立て、目を閉じた。

不思議と温かい感覚が私の耳元に湧きあがる。

彼女の指先から一滴の雫が湧き上がると、すっとカップに水が注がれた。水の魔法…無から水が生まれてくる漫画でしか見たことのない光景が目の前で繰り広げられていた。

「…すごい…」

「こんなのは初歩の魔法ですわ」

といいつつエリスさんの顔は少し誇らしげに赤らいでいた。


魔法はお約束どおり「火・風・水」とここでは「生」の魔法に分かれるという。

ここにいる〇〇長という名のつく4人はそれぞれ魔法に秀でていている信者が選ばれているらしい。

ニケ君は生…要は回復魔法(ヒール)で信者の傷を癒やし

カミラくんは火の魔法(ファイヤ)で信者を外敵から守るという


「風の魔法がなんで侍従長なのかしら」

風だって立派な攻撃魔法のような気がするが…

「ホコリを飛ばすから掃除しやすいんですよ」

マリアちゃんがニコニコしながら私にそよ風をかけてきた。

「…エアダスターじゃないんだから…」

前世のホコリまみれのサーバールームを思い出し私は苦笑いした。


「私は4属性すべてを使える代わりに他の皆様ほど強力に魔法は使えません」

エリゼさんは聞かれるでもなく教えてくれた。

「マナの制御はアイリス様への信仰の現れなのです」

うっとりと

「4属性すべてを使えるという私のあふれるアイリス様への信仰が…」

「はいはい、だいたいわかったから」

話が長くなりそうなので私はまずい水をすすり、押し黙った。

一芸特化よりもオールラウンダーのほうが評価される世界だというのはよくわかった。

あと、エリスさんはどことなく私を轢死体に変えた「推し君」と似てるということも…


体と心をなじませる時間がほしいという名目で、私は朝食後マリアちゃん一人残して、他の3人を部屋から追い出すことにした。

マリアちゃんを選んだ理由は…一番大人しそうで、暴走しなさそうだからである。

侍従長というだけあって彼女はよく気が利く。

水が美味しくないと言ったらちゃんとお茶にして持ってきてくれたり、彼らの持つ聖典が読みたいと言ったら机と椅子を一緒に持ってきてくれたりと…

おどおどした小動物のようなかわいい表情も手伝って、現時点で気が許せそうな異世界人ナンバーワンである。

魔法について私が使えないかと、深掘りして聞いてみると…

生まれながらに魔法が使えるこの世界の人間にとっては、説明するのが難しいようだ。

「(まあ…この子にプログラミング教えるようなものよね…)」


魔法が使えるのであればこの世界で生きるのには便利そうなのだが…今はまだ後回しにしておこう。

私はペラペラと聖典を読み漁る。

ちなみに子供もの頃からヲタクなだけあって本を読むのは早い。

脳みそが若い肉体がおかげもあって文字がスラスラと入っていく。

なぜ異世界の文字が読めるのかというような野暮なツッコミはやめておこう。

なにがあっても、そういうものだと納得するしかない。


「さてさて…つまりは1000年前より前の出来事はここには書かれていないのね」

聖典を数刻かけて読み終わるとマリアちゃんに尋ねてみた。

宗教の聖典に書かれていることはだいたいこの世界でも同じである。

信仰の中心となる神と神の代理人が地上に降り立ち人々を救う英雄譚である。

私がその英雄なのか神の代理人なのかはボヤケているがも少なくとも信仰の中心であることはわかった。


「書かれていない我々が口伝で伝えられている伝承があります」

ほう…興味深い…

マリアちゃんは石版を向きながら…

「『世界が飢餓の危機になった時、石版から少女が現れた。飢餓に苦しむ人々すべてをその血に還元し、世界に肥沃な大地が生まれた…』と」

…人類を補完するおつもりですか、それ…

「石版とアイリス様は伝承以前の時代にこの地をマナの力をお使いになったということです」

「抽象的な話ね…」

やはり教祖だの神だの…私には向かない話である。

「あなた達はそれを望むの?」

「はい。この世の苦しみからすべての人々を開放するために、アイリス様とともに大地に還元される日を待ち望んで今日まで信じてまいりました」

「……」

この人達のギラギラした目は…やっぱり苦手である。


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BootRoader Err

SYSTEM.COM NOFILE

.....


IO.SYS Pass.........

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