03話 ~私の宿命…重すぎませんか~
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1946
その数字を見た私の最期の瞬間は少し奇妙なことに、微笑んでいた。
私のスマホの暗証番号と同じだったから…
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「…」
「お目覚めですか」
薄っすらと視界がひらけると、エリスさんが私の顔を覗き込んでいた。
「…起きたくない」
だが頭が鉛のように重い。まだ心と体がバラバラのままである。
「…そうですか…」
頬から温かい感触が伝わってきた。
「なんで…まだその恰好なの?」
私は被せられた毛布をよじりながらつぶやいた。
意識を失っている間にベッドが運ばれてきたようだ。
エリスさんはベッドの上にもかかわらず正座したまま私を膝枕していた。
「アイリス様のご命令ですから」
「…」
とことん私に従順なわけね…
少し薄暗がりでも分かる彼女の法悦した表情から、私は深く考えることをやめた。
まずは自分のことが大切だ。
未だ現状把握すらままならない。
それ以前に自分の体が自分のものである感覚がまだできていないのだ。
「私、どれぐらい倒れてたの?」
「そうですわね…数刻といったところでしょうか」
…刻…この世界の時間の概念は分からないが、数時間と今は捉えよう。
「なら…もう少し休んでいいわね」
エリスさんは小さくうなずいた。
考える時間が必要だ。
「(どうやらここは異世界らしいわね)」
なんとなくだが体の感覚がそれを教えてくれる。
それに、私が見たエリスさんの青みがかった髪は染めてできるようなものではない。
カミラ君にしても…私の周りにいた人たちが…地球ではない人種(?)のようにみえる。
根拠としては今ひとつだが直感なんてそういうものだろう。
だとしたら私はどう転生したのだろう
よくあるパターンは
悪役令嬢とかのゲーム系の世界
モンスターのいる世界
剣と魔法の世界
だいたいこういう出来事は相場が決まっている
「(相場ねぇ…)」
まあ…この世に転生を経験したことがある人間などそういるはずもないから
自分の前世の記憶などあてになるとは思えないが…
「(そうそう…重要なことがあったわ)」
第一に確認しておかなくてはならないことがある。
「ねぇ…私達って何かと戦っているの?」
とりあえず気になることはそれである。
自分の身に何が起きようと、まずは身を守るのが生存本能である。
「ご心配なく。聖域にアイリス様に害なす人間は入れないように出来ています」
「…」
「(出来ている、ね…)」
その言葉を額面通り…当てにしていいやら…
まあいい…
「…」
「アイリス様は宿命を覚えてらっしゃらないのですか?」
キョトンとした顔でエリスさんが尋ねてきた。
うーん…なんと答えていいやら。
先程と違って気を失っている間に頭が冴えてきたのか、情報の整理は出来てきているのだが…
「(さてさて)」
迂闊なことを言って今の護られている立場は放棄したくないし…
「…時が来たら…」
それっぽいこと言って誤魔化そう、
「やはりおぼえてないのですね」
バレてる…ヤバっ…
昔から感情が表情に出やすいのよね私…
「アイリス様は石版の巫女。お眠りになられていた石版の力を開放しこの世のありとあらゆる法則を書き換えることのできる唯一の女性」
…抽象的だなぁ…
「そう言い伝えられます」
「そう…」
言い伝えというのが曲者である。
大体がたまたま奇跡のように見えた出来事が崇められる…偏見かも知れないが宗教とか教祖とかってそういうものとしか…
俗物であった私には捉えられていない。
「私にその力があるのね」
エリスさんは目を輝かせて頷いた。
「(まいったなぁ…こりゃ)」
異世界だろうし、何でも1000年近く私をあのへんてこな石が眠らせていたという話が本当であれば…
私になんだかの力があるというのがお約束だ…
問題は私にその使い方がわからんのである。
魔法かしら、それとも祈りかしら…
想像力が追いつかない。
「この世の法則…」
「はい。この世界のマナをすべて操る能力です」
「(はい、ヒント来たわあぁぁーー)」
ここは「魔法世界」、メモメモっと
と私は少し心のテンションを上げて今の言葉を記憶した。
少しハイになっているのは間違いない
寝ないで迎える3月とおんなじテンションだ
まああまり笑える話ではないが…
「アイリス様の宿命は来るべき世界の崩壊に備え、この世のすべての生物をマナに還元しすることです」
天使のような微笑みでエリスさんがとんでもないことをのたまっている
終末的カルト思想だね…それ
「(私は生きていたいんだよね…どうであれ)」
この瞬間私は、身を守る術は私にしかないことを本能的に悟るのだった。
この世のすべての生物…それはおそらく自分も入るだろう
そしてその力が私にはある…もしくはあると信じられている…
どんな無理ゲーなんだろう…