最終話 ~唯一無二の単推し~
かつて、武道館ライブを夢見たこともある。
小さな小屋を満杯にして、主催ライブを開いた時が思えば最高潮だったと思う。
あれは確か二十歳になったぐらいの時だ。
いま、肉体年齢はそれに近い。精神的には複雑だが、まあアラサーの域と言っておこう。
夢は、ひょんなことから形を変えて実現した。
「さすがに緊張するわね」
私は闘技場に集う信者達の集まりを万単位で数えていた。たぶん武道館ライブどころではない。
そしてアイドルライブでもない。
神格化された私はただ信者の前に立ち、とびきりの笑顔を見せるだけでよい。
役割は既に偶像なのだ。
ただ会場の熱気は前世のアイドルライブと変わらない。
神様もアイドルも形を変えた崇拝なのだと私は思い知っていた。
皇帝ディオネが私を称える演説を続けていた。
即位から一年、アイリス教も帝国も私の思い描く近代化の道のりをあゆみ出したばかりである。
ただ変わらないのは、私が思い描く私の名のもとに人の生き死にが起こらないことという絶対理念である。
脅し透かしの魔法も使い、その理念は畏怖と尊敬、崇拝として定着している。
餓死者も紛争も、小競り合いの殺し合いもなく何とかここまでやり過ごしてきた。
ディオネ君が目配せしてきた。
合図である。
光のマナを操作しスポットライトをディオネ君に当てる。
そういえば彼に与えた役職は「応援団長」だった。
前世の私はアイドルとして応援団長に命を奪われた。
私はゆっくりと演壇に登っていく。
アイリスが皇帝ディオネの婚約者であることはこの国の公然とした秘密である。
私たちはあえて噂を流し、そのまま公の席で明かすことは無かった。
登壇しディオネ君に親しげに抱きつくと、ディオネ君も抱き返しくれる。
私が手を差し出すと皇帝ディオネはその手の甲に唇を重ねる。
観衆はどよめきの後歓声を上げた。
宗教国家らしいわざとらしい演出である。
ただこれでいい。
もう一度応援団長に私は命を捧げるのだ。
アイドルの夢を捨て偶像に。
アイドルを捨て旦那様に。
これは公然だが私達だけの秘密。
私にとっての単推しが私の旦那様なのだから。
~終わり~




