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02話 ~現実逃避、そのはてに~

少し時間がたった。

ようやく静かな空間で落ち着いたところで疲れがどっと押し寄せてきた

「ふう…」

ロング君は『カミラ』君という、これまた名前もイケてる若い子で、近衛師団長だという。

護衛を主に担当しているそうだ。

「(肉体年齢的には…私の方若そうだけどね)」

もう一度頬をつまみながら私は唯一喜ばしい10代の肌の感触を楽しんでいた。


「(さてさて…いい加減目を覚まして状況を整理するとしますか…)」

他にも衛生士長、神官長、侍従長…とまぁ仰々しい役職の視点が私に注がれている。

皆が微笑んでいるようで目がギラギラしているのは、元地下アイドルの感覚としてわかる。

「(こりゃ、みんな「推し」を見る目だ…それもやばい系(ストーカー)の)」

緊張を解かず改めてあたりを見渡してみた。

4人とも私の一挙手一投足を見つめているようで気持ち悪いのだがとりあえず無視することにした。

白黒(モノトーン)…」

私は声に出さざるをえなかった。

なにせ周囲にある色がそれしかない。

黒いローブに包まれた男女と、白いローブの私。

少し神秘的だが、この部屋はなぜこれが洞窟の中にあるのかというような真っ白な壁で作られた見事な立方体の空間である。

一応生活感がありそうなのものとして急遽私がリクエストした木の椅子と机だけがわずかに彩りを添えているだけ。

光を照らす照明もないのに何故か部屋は明るい。

そんな不思議空間に、5人も人間がいて全員が色白と来ている

少し気が狂いそうである


そして

「…」

部屋の中央に横たわって置かれている長方形の黒い物質が圧倒的な存在感を醸し出していた。

私が目覚めたのはこの黒い御影石のような…まあ俗っぽく言えば棺桶の中からである。

もっと簡単に言おう。これはモノリスそのものである

分らない人はSF好きの友達にでも聞いてほしい。

多分2時間ぐらい熱く語られて、友情がバッツリ切れるから(経験談)


挿絵(By みてみん)



思い出してきた…

不思議と空を浮かんでいるような感覚から薄っすらと意識が冴えてきてた後に、気がついたら今いる連中がざわめきながらこの私を抱きかかえてくれたのだ。

記憶の連続性は相変わらずだが、時折思い出すことが点のように鮮明に浮かんでくる、


すぐさま衛生士長と呼ばれる、これまた短髪のイケメン君が私の身体を一通りチェックしてくれて…

「(って…全裸…見られたのね)」

少し赤面しつつも、とりあえず今は意識があることに集中する。

そのまま意識もまだらなまま50人ものやばい人たちの前で石像とかしていたのがついさっきまでの流れだ。


彼らの話によるとこの身体は1000年以上、彼らが石版と呼ぶ黒い棺桶の中に浸かっていたというのだ。

浸かっていた…つまりはよくわからない液体の中身に浮かんでいたという。

その神聖な姿ゆえ私は偶像として崇められ「石版の巫女」として伝承されていたというのだ。


「誰か…もう少し詳しく説明してくれるのかしら」

「はい、アイリス様」

 カミラ君(近衛隊長)がすっと一歩前に出てきて、私の前にひざまずいた。

「まず確認ですが…アイリス様は『御使命』を覚えてらっしゃいますか?」

…知らんがな…

「…」

 気まずい沈黙にゴホンっとカミラ君が咳払いし、説明してくれた。


アイリス教は私と私を護る『石版』と呼ばれる、私の感覚からしたらまあ趣味の悪い棺桶を偶像にした宗教なんだという。

「…宗教というよりは邪教よね」

「否定はできません。今は虐げられ密教とかしておりますので…」

すまなそうにカミラ君が苦笑していた。

現代っ子の私のストレートな物言いに、周囲には少し戸惑いが見られる。


伝えられている伝承によるとアイリス教は数百年前より世界を統一した「帝国」とやらから弾圧を受け、発祥の地であるこの洞窟に籠もり集団生活をしているという。

およそ集落の構成員は300人…その頂点が私ということだ。


「…でありまして……と…」

情報が洪水のように押し寄せてくる。

昨日まで私はしがないパート社員だったはず……

頭がくらくらして血の気が引いてきた。

「…ま………様?」

すっと、私の異変に気がついた女性が私を抱きとめてくれた。

「…ぁ…りが…と」

喉の奥になにかが詰まっているような苦しさに声が出てこない。

「アイリス様、大丈夫ですか」

どうやら…座ったまま意識を失いかけていたようだ。

極端な貧血のときのくらくら感にも似ているが…そんなものではない

「床でいいから寝かせて…」

私はかろうじて声を絞り出した。

「そんな…マリア、ニケ、急いで寝台を用意なさい」

確かマリアが侍従長のつぶらな瞳のかわいい女の子で

ニケは不気味な薄笑いをしたイケメンの衛生士長だったかしら

一通りの自己紹介は済んでいるが…顔と名前が一致はまだしていないのだ。


「じゃあ…私は貴女の膝を借りるわ」

私はひとまずこの場を取り仕切っている女性の肩を借りながら、嫌がる彼女に石版に座わるよう命じた。

「あの」

戸惑いはわかる気がするが…知らん。私はとにかく横になりたいのだ

「えっと…名前なんだっけ」

「神官長の…エリスです」

そうそう、私を着替えさせてくれた同い年ぐらいのアラ(ないしょ)ーの雰囲気を漂わせる知的な女性だ。

「座りなさい」

私は自分でも驚くぐらいどすの利いた低い声で彼女に再び命令した。

「…」

そしてこいつらが崇めるという石版なる怪しい黒い塊に座らせると、その…エリスさん…だったか、

神官長の横に座り崩れ落ちた。

「そんな…恐れ多い…」

血の気の引いたような彼女とは裏腹に、私は心地よい人肌に頭が冴えてくる


改めて…これは夢なんかじゃないのだと。

自分の身体と心が引き裂かれたような喪失感の中、私は何度目かの現実逃避をやめ、素直に状況に従い…

「はぅ…」

再度意識を手放した。

次に起きたときは…一つずつ状況を理解していこう…

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