28話 ~神様は暇である~
暇である。とりあえず毎日が同じ繰り返し。
することといえば、食事、読書、睡眠である。
やるべきことはみんな他の人がやってくれる。
暇という言葉を聞き飽きた脳内相方も、最近は話しかけてくれない。
惑星間移民定着プログラムにリソースを食っていて話す余裕がないという。
私は寝巻きのままベッドでごろごろしていた。
相変わらずみんなは忙しそうである。
エリスさんは政務官として行政組織を掌握しようとほぼ徹夜らしい。
マリアちゃんも私に構う暇なく宮中のメイドたちにアイリス教を布教させていると聞く。
男どもは軍事訓練にマナを取り入れたり、医療改革に力を入れたりと皇都内を駆け回っている。
それもこれも全部私のアイディアなのだが...指示を出しただけ。実行に関われない私はぽつんと一人放置されていた。
何日に一回か進捗状況の報告にみんなが来るのだが、熱く燃えているみんなの手前、暇してるから誰か話し相手に残ってとは言えずにほぼ一ヶ月...皇宮の本も興味あるものは読み切っていた。
実行に移せない先延ばしにしている計画もたくさんある。
農地改良や上下水などインフラ整備、出来ればアイリス教の神学校も作りたい。
そして、石版のコピーも重要課題だ。
インターフェースをもう一台用意して私の石像に組み込む。
無からエネルギーを産出出来るマナの力は、文字通り革命になるだろう。
産業、文化、ありとあらゆる概念が描き変わる。
それには大切なことがある。
信仰心のイメージがマナの源である。
心のエネルギーと言い換えていいだろう。
そのためには私の神秘性をもう少し高める必要があるのだ。
「アイリス様はしゃべるとボロが出ますからね」
と、エリスさんが非情な宣告したために私も自室に事実上軟禁されているようなものだった。
悔しいが反論できる材料が無かった。
これから先のことを見越した、神格化のためとはいえ、なかなか精神的には来るものがある。
まあ悪いことばかりでは無い。
ディオネ君から来た手紙によると、貴族達との交渉は順調で、近々即位が正式に認められるらしい。
これもアイリス教の信者や影響下にある民の数が物を言わせているとの事だ。
社交界デビューのためにドレスなど必要になるので準備しておいて欲しいと書いてある。この軟禁も終わりが見えてきたわけだ。
実は社交ダンスはかじったことがある。ダンスにはアイドルとしてかなり力を入れてきたので、教養の一環でアドリブでこなすのは何とかなりそうだ。
そうなると、ドレスはマリアちゃんと一緒に縫製すればいいし...なかなか楽くなりそうだ。
「ただいまです。アイリスさん」
愛しのディオネ君がようやく帰ってきた。いや、大袈裟だが何せ独りで部屋にずっといたので、表現も感動も大きくなるものだ。
「...なんか大人びたわね」
私は最高の笑顔をディオネ君に向ける。
為政者としての自覚からか、初めて会った時の子供のような顔つきは、すっかり消えうせていた。うん、これだから男の子の成長期はたまらない。
と、心が軽く腐りながら私はディオネ君を抱きしめる。
「すいません、長く暇させてしまって」
「本当よ...」
当たり前のように抱き返してくれた彼にキュンと乙女心がときめいた。
「でも、よかった。会いたかったわよ」
ようやく譲位に伴う混乱も落ち着いてきたらしい。これも私が隠れていた成果である。
人の噂ほど、便利なものは無い。皇宮で起きたことに尾ひれがついて私の神秘性を増す作戦のおかげで、計画は順調に進んでいるようだ。
「貴族院の同意、地方の軍閥の掌握...」
ディオネ君がこの一ヶ月の成果を指折り並べていく。
実際彼も大変だっただろう。私は後光を指しているだけで、実務面から政治を執り行うのは彼である。無血とはいえクーデターの混乱から国を平常運行に持っていくのは至難の業である。
それをやり遂げたのだ。
「後は皇都内の旧勢力を地方に飛ばすぐらいですね」
それには自分の肉親も含まれているだろうが、眉ひとつ動かさずディオネ君は言った。
「大切なこと忘れてるわよ」
私はディオネ君の手をにぎりしめる。
「あっ」
途端に顔を真っ赤にさせて彼は視線を逸らした。
「そうですね...僕達のこともいずれ民に向けて発表しなきゃですよね」
まあ、私の中では焦るつもりは無いのだが、早いに越したことはない。
ディオネ君となら婚約上等、結婚オッケーだし、彼の権威付けにも打って付けである。
ただ、まあ手を握ったぐらいで真っ赤になるのだから彼も先が思いやられる。
「アイリスさん、顔赤いですよ」
訂正、私たち二人とも先が思いやられる。




