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25話 ~ステージ開幕直前の嫌な時間~

神の怒り。今回の作戦のキモである。

神がいるかいないかは別として、皇帝に喧嘩を売るには神の力を借りるしかない。

そこで私は手を打った。

餓死か譲位かふたつの道を選ぶよう皇帝宛に親書を送り、信者には神の怒りで皇帝が譲位する道を選ぶと噂を流したのだ。

神という言葉は便利である。

皇帝が神から権力を与えられたと考えているように、民も神の威信を信じている。

故にアイリスこと私を崇めるアイリス教は邪教徒扱いされていたのだが、文明レベルを遥かに超えた保存食による施しは、確実に皆が信じる神と私との距離を縮めていた。

あとはその偶像を実態として皇帝の前で見せつける。

この作戦はその実態にかかっていた。

「これって『新世界の神になる』…ってことよね」

私はゲンナリとしながら呟いた。いかにも…なセリフである。


気を取りなして私は作戦の詳細を詰めていた。

マリアちゃんには私が神々しく見える衣装を、ディオネ君には皇帝に突きつけるセリフを考えてもらっている。

エリスさんは信者の統率、男二人の幹部は私の護衛である。

そして…イオシスにはフル稼働してもらう予定である。

『インターフェイス越しなのでどこまで出力かが出せるか、概算になります。実際は誤差がありますからお忘れなく』

こういう冷静な助言は人工人格に任せればいい。

明日は馬車に乗り、帝都に殴り込む。

四の五の言えるのも今夜が最後である。


「アイリスさん…」

ディオネ君が私の部屋にやってきた。からかい半分に一緒に寝て以来、赤面していた彼が今日は真剣な眼差しで私を見つめている。

「父に…選択肢を与えてくれてありがとうございます」

そう言うとディオネ君は跪く。

彼の中では民と父を天秤に掛け、権力を掌握することが第一優先だったという。

それが、私の施しと今回の作戦で両者の命を繋ぎとめておく可能性ができたことに、深く感謝しているのとのことだ。

「まあ…私が血を見たくないから必死に考えただけよ」

私は率直な気持ちを伝えた。だが、その発想自体が斬新なんだという。

考えてみれば人の権力闘争など、血塗られた歴史だ。選挙制度などというものは近代にできたこと。それまでは戦争か暗殺か革命か…

だが、今回私は、神の名を語り、はったりで権力を強奪しようとしている。

「貴女に家族を殺すもんじゃないって言われた時…自分が愚かしく見えたんです」

その気持ちは少しわかる。

誰だっていちばん大切なことのためには、何かを犠牲にしても良いと考えてしまう。

私も芸能の世界で誰かを這いずり下ろしてでも頂点に立ちたいと思っていた。

だがその道は辛く、待ち受けていたのは夢やぶれてボロボロになり、ただただ夢を見るのが目的になっていた昔があるのだ。

「私は一度死んだ身だからね」

純朴な少年に自分を重ねて道を外して欲しくない。そんな気持ちから私はディオネ君を正面から抱きしめる。

「アイリスさん…」

ディオネ君は少し涙目のまま腕に力をこめ私を抱き締め返してくれた。

「頼みにしてるわよ、未来の旦那様」


全ての準備が整い、私たちは帝都に向かい馬車を走らせる。

といっても道はガタガタと荒れ果ててある。

やるべき事は多そうだ。

「道もそうですが、帝都に富が集中しています…辺境の道の整備も長期的に視野に入れないと」

ディオネ君は一段と為政者らしくなった。移動しながら私と話し、気がついたことをメモに取っていく。

彼も彼なりに覚悟ができたらしい。私が現代の知識を使って富を再分配する未来を、彼も実現に移そうとしているのだ。

皇帝の座に着く。作戦の結果は成功しか考えていない。

こういう大勝負の時に、穏やかな気持ちになれるのはいい事だ。

不安は失敗の元。自信過剰は空回りの元。

ただただ穏やかな時間で開場を待つライブは、上手くいくことが多いのだ。


帝都に近づくにつれて、私達を取り囲む馬車は増えてきた。信者と帝国内の私達に下った軍による護衛である。

道中、荒れ果てた畑や道から見るに、飢餓はかなり深刻だったのだろう。

ディオネ君は鎮痛な面持ちで外の景色を見つめていた。

いずれこの畑も何とかしなくてはならないだろう。

帝都は王宮を中心に城西で囲まれていた。

その光景に私は『隣の国の独裁国家』の前世の記憶が浮かんできた。

思えばそんな境遇で育ったディオネ君は特殊な存在なんだろう。

民を思い、自分から権力闘争のために私を頼る。

彼の小さな身体が頼もしく見える。


城塞の門は呆気なく開いた。

少しは抵抗があると踏んでいたのだが…やはり帝都内にも私の味方は多いようで、馬車の中にも歓声とざわめきが聞こえてきた。

「大丈夫」

私はステージに登る前に必ずつぶやく言葉をおまじないのように発する。

そして馬車を降り、皇宮へ歩みを進めて行った。


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