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22話 ~メジャーデビューはご勘弁~

食を制する者は文明を制する。

これは多分宇宙の真理なのだろう。

つまりは、食欲を満たす作戦はあっさりと成功してしまった。

今やアイリス教と私の名前は帝国の一大勢力となり、代弁者であるディオネ皇子は父を上回る発言力を持ってしまったという。

「カレーって偉大よね…」

現実逃避しながら私はご飯を食べていた。

フリーズドライとカレーの相性など最悪に近いというのは現代人の感覚である。

生産性と効率を考え作ったお湯を注いで作れる具なしスープカレーといえども国を乗っ取る力があることが証明されてしまった。


「父の首はいつでも奪えます」

ディオネ君が誇らしげに語っている。

軍の半分は食糧配給に負け、私に下ったとの事だ。

おかしい…アイドル活動で天下をとる予定が、何故か血なまぐさい国盗り物語になっている。

「ねえ…戦争は嫌よ」

「ではこのまま兵糧攻めですね」

ディオネ君やカミラ君など、男どもは軽い口調でのたまった。

まあ好戦的な男どもは放っておいて、私はエリスさんやマリアちゃんに助けを求める。

「もう、ディオネ皇帝とアイリス皇妃の流れしかないですわ」

「洞窟から皇宮暮しですね。楽しみです」

二人とも天下をとったような顔で目を輝かせていた。

イオシス…

『移民プログラム遂行には独裁的権力は必要悪かと』

どうやら私の小市民感覚を理解してくる同志は居ないようである。

実際、ここまで事が進んだ以上…争いは回避出来ないだろう。ならば、

「大人しく皇帝に隠居してもらうしかないかぁ」

首を取るなど物騒な歴史は私は勘弁して欲しい。古来より権力争いはそういうものだとは分かっているのだが、いざ自分の身に降りかかると覚悟など出来ないものだ。

それに、

「家族で殺し合いなんてするものじゃないわ」

私はディオネ君の頭を撫でた。

私だけでない。この純朴な少年にそんな重荷を背負わせたくないという気持ちもある。

「アイリスさん?」

私の沈痛な表情を見て皆が黙り混んでしまった。

「考える…時間が欲しいわ…」

私はそういうと、みんなを残して自分の部屋に戻っていった。


私は泣いていた。

「…」

つくづく自分のヘタレ具合に気が滅入りそうである。

前世からそう。チャンスに飛びつけないのだ。

小さい殻に閉じこもり理由をつけて大きなチャンスを逃す。

今は人の命の奪い合いの話である。地下アイドルと比較するのも変ではあるが…ついつい同じように考えてしまう。

そもそも私が手を差し伸べた結果である。

ディオネ君を招き入れ、なし崩し的に帝国の飢餓を救ってしまった神秘の英雄。

それがアイリスという名の、私となってしまったのだ。

マナの中心で、石版の管理者は私しかいない。

配給によって長らえた命の責任は既に私の一部なのだ。

だがどうしても小さな殻から飛び出る勇気が湧いてこない。

今までの人生、アイドルもそう、ダンスもそう、恋愛だってそう。

私という人間が小さく感じられる。

じゃあ大きなチャンスを掴んだとしてどうなる?

為政者として常に観られる立場で闘わなくてはならない。

私はディオネ君みたいな純粋な気持ちで人の前に立てるような人間では無い。

ではこのまま洞窟で一生を終えるのか?

ぐるぐると頭が回っていた。


疲れ果てた私はいつの間にか夢を見ていた。

前世の記憶。

私を取り囲むライブ会場のファンと、法悦しながら歌って踊る私。

ふと気持ちが冷めるとぞろぞろと帰り出すファン達。

取り囲む一部の熱いファン。

私は戸惑っていた。どちらに視線を向けていいかわからず背景からファンを消して自分の世界に引きこもる。

怖い

怖い

誰も見てくれなくなるのが怖い。

みんなが見てくれるのが怖い。

じゃあなんでこんなことやってるの?

私が好きだから。

みんなが好きだから。

本当に?

「ずっと応援してたのに」

私はホームから突き飛ばされた。

そして滑り込んでくる電車は……


「…」

酷い寝汗で目が覚めた。

数時間ぐらい寝てたのだろうか…いずれにせよ最悪の目覚めである。

ただ…少しわかった。

一度結果は出ているのだ。

何もしないでいると何がするのと同じぐらいの後悔が待っているのだ。

前世でアイドルになると決めた時。

今、アイリスとして皆を導き出した時。

同じでは無いが多分今が分岐点なのだろう…

「やるしかないのか」

電車はレールを走り出している。そんな状態である。

このまま進むしかない。ならば、他人任せでは無く、自分がしたいようにやらなくてはならない。

答えは出ているのだ。

私はディオネ君と一緒に国民のアイドルになって皆を喜ばせればいいのだ。

少し気持ちが晴れてきた。

私は決意を胸に、みんなが待つ聖堂に足を進めていた。

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