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21話 ~若いっていいなぁ~

こちらが見ていて心配になるぐらい、ディオネ君はマナの魔法の練習に明け暮れていた。

まあ、ナンバー2の肩書きを授けた気負いもあるだろう。ここは精神年齢だけ(ここ重要)先輩として無理させすぎないようどこかで釘を打てばいいだろう。


さて、ライブ活動の普及はそんなこんなで順調に進んでいた。洞窟内のセキュリティに気を配りながら週一回同じように歌って踊る。ただそれだけなのだが最近は周囲の村やはるばる王都から来る人もいるらしい。

気持ちとばかりに手土産を持ってきてくれた人には洞窟飯を振る舞うのも慣例となってきた。

なかなかの成果である。

もちろん飢餓寸前の外の食料事情がまかない飯程度でどうにかなるとは思えないが、ファンの数が多ければ多くなるほど後に何か起こすときに都合がいい。


まあ頭痛の種もそのなにかだが…

私のライブと世間の文化レベルとのギャップで大半のファンと呼びたい観客が尊敬ではなく信仰心を持ってしまうのだ。

ディオネ君が皇子としての立場を捨て私のもとにいるというのも厄介なことの一因である。

今や為政者にとってアイリス教は邪教の域を超え国を脅かす新興勢力となりかかっているのだ。


「ここまでは予想通りですね」

ディオネ君は平然とのたまった。

「あ、そうですか」

暗殺の危険があるということで、ますます洞窟から出られなくなってしまった私としてはすこし複雑だが…まあ彼なりに勝算があるのだろう。

「帝国内も二分してます。すなわちアイリスさんを受け入れるか否か。これは大きな前身です」

応援団長任命の後、ディオネ君には私に様をつけないようにきつく厳命していた。最初は戸惑っていた彼だが、何度かの注意でさん付けで私を呼ぶことで勘弁してあげている。

『本当は呼び捨てされたいのが乙女心』

やかましい、ポンコツ人口人格。

さておき、帝国内で私を受け入れようとする勢力があるならあとは簡単である。

人心は餌で釣れ。

つまりは食糧さえ供給出来れば一気にアイリス教は国を乗っ取ることができるだろう。

しかし…

「そうなるとあなたのお父様の立場は無くなるわ」

「兄もです。仕方ありません。人民にパンを与えられない為政者は引きずり下ろされるのが運命です」

毅然とした顔付きでディオネ君は言った。可愛い顔して怖いことを言うものだ。要は私を出汁に帝国内で反乱を起こそうという策略なわけだ。

「…」

「……まあ命まで取りたくはないですが、こればかりは予想つきません」

生まれながらの平民とは覚悟が違うようである。彼いわく相手の出方次第では、つまり抵抗の度合い次第で殺さねばならない場面も生じるだろうとのことだ。

…あまり気持ちの良い話では無いが、餓死する民を救えないことと親殺しの皇子…そのふたつが天秤に乗っているだけである。

純朴な彼の目付きを知っている私としては何とか穏便に事を済ませたいのだが…

私が難しく顔をしかめていると、ディオネ君はニッコリ笑って私の肩をさすってくれた。

「アイリスさんに罪はありません。これはあくまで帝国内のお家騒動ですから」

いや、そうはいっても割り切れないのが現代人の感覚なんだろう。平和ボケと言われて久しいが目の前で血を見る度胸がない私と、覚悟が出来てるディオネ君とでは、そもそも話の土台が違うのだ。

私はため息をついて…食糧配給の計画を立てていた。


目の前に飢餓寸前の人がいるのだ。エンジニアリングの観点から割り切って考えよう。

帝都にはマナの力がまだ及んでいない。となれば保存性が問題である。

「あとは携帯性かぁ」

…この世界の移動手段は馬車である。2トントラックやガソリンをプログラムしてピストン輸送するなど出来はしない。

そんな複雑なものを作るのも大変である。

「……よし」

私は久しぶりにインターフェースであるノートパソコンにプログラムを書き込んだ。

といっても簡単である。プラスとマイナスを少し入れ替えただけだ。

ものの五分で新しい氷と吸気のマナが出来上がった。

水と火のマナの反転、風のマナの応用である。


まずは目の前のお茶にそれを試してみることにした。

皆がキョトンとしているうちにカップに注がれたお茶はカチカチに凍りついてしまった。

「アイリス様…これは凄いですけど帝都まで馬車で二日かかるんですよ」

マリアちゃんがツンツンと凍ったお茶を触りながら指摘する。

もちろん二日も氷が溶けない訳が無い。次のマナの出番である。

吸気のマナ…うん、語呂が悪いから後で名前は考え直そう。

私は風を反転させお茶の周りの空気を遮断した。

と、吸気により真空になったお茶はバラバラと粉になる。この世界初のフリーズドライ茶の完成である。

「エリスさん、お湯持ってきて」

「は、はい」

誰もが目の前の光景に唖然としてる中、私は粉のお茶にお湯を注ぐ。

当然だが再びお茶が出来るだけなのだが…もはやみんなの理解力を飛び越えているのだろう。

ディオネ君が勇気をだして差し出されたカップの液体を飲むと…

「なんでお茶の味がするんですか、これ」

パニックに陥ったディオネ君の顔は、先程の大人びた顔と対照的で可愛らしかった。

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