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18話 ~皇子さまと地下アイドルと~

『心拍数が上昇、精神的にも情緒不安定のように観測されてますが』

やかましい、空気読め、人口人格。

四半世紀以上色恋沙汰に縁のなかった乙女がいきなり婚約させられたら情緒も安定せんわ!

『しかし肉体的には十代同士、文化的にも問題ないと思われます』

そんなに簡単に二進数で割り切れたら動揺なんかしてないわよ…


ひとまず婚約の話も保留である…というより私が固まってしまったため、会談自体が中途半端に終わってしまった。

交渉団は「皇子の入信」と皇帝には報告するとして解散し撤退していった。

いかんせん、聖域で敵意を見せると排除されるという話は大きく伝わっているらしい。

皇子の決定には逆らえないとばかりに蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ったというのが正確なところだ。

カミラくんも早々と帰ってきて、事の顛末に苦笑いしていた。


さて、問題は私の目の前でニコニコと私を見つめている皇子こと、ディオネ君である。

眩しすぎて直視できない。

つうか、このドキドキが治まって欲しい。

「まずいんじゃない、この状況」

私はエリスさんを睨みつけた。彼女の余計な一言ですっかりこの子がその気になってしまったのだ。

「皇帝にしてみたら皇子、誘拐されたようなもんじゃない」

「まあ、父にそう取られても仕方ないですね」

表情を崩さずディオネ君は言った。

「ですが帝国に何ができます?、ここへの侵攻すら茶番で済ませるだけの脆弱な軍隊ですよ」

「…」

額面どおりに受け取っていいのか、私は迷っていた。

「なんなら食糧でも恵んであげれば、喜んでアイリス様に寝返るだけ全軍は疲弊していますよ」

「なるほど…」

なかなかの取引材料である。果たして国ひとつの軍を賄えるだけの食糧が生み出せるかは別として、こちらとしても人質にするには爆弾を抱えてしまったことに私は気がついてしまったのだ。

「血を流さずに民を守るにはこれが最良と判断しました」

真っ直ぐな瞳でディオネ皇子は私を見つめていた。


なかなかのやり手である。かわいい顔しているが真の駆け引きは交渉団が返った今行われているというわけだ。

私が恐れているのは私という空虚な存在が生んでしまいかねない対立である。ましてや死人が出ることなどもってのほかである。

この時点で、敵対を回避するには相手の条件を飲む以外、なさそうである。

「わかった。皇子をこちらで受け入れる代わりにマナの力で貴方の国を助ける…ここが落とし所ね」

「はい、聡明なアイリス様にはご理解頂けると信じていました」

ニッコリと差し出された手を握り返し、交渉は終了した。


まずは何から始めよう。

相手は一国の皇子と皇帝だ。

とりあえず八つ当たりでエリスさんは正座で反省してもらうとして…


マナによる食糧供給かぁ…

食材はイメージによるプログラムで石版から湧き出てくる。このイメージというのが厄介である。カレーにしろお茶にしろ、皿ごと「単品」で出てくるのだ。

ゴミも石版に投げ込むと吸収されるからいいのだが、供給という面では不利である。


そこで考えられるのはまずは石版のコピーである。

『無茶を言いますね』

即座にイオシスが答えた。まあ、本体そのものを簡単にコピー出来れば苦労はしない。

だが、そうすると私のノートパソコンは?

『元々あったインターフェースをアイリスのイメージに沿って具現化したものです』

なるほど、機能として備わっているのであれば改善の余地はあるという事か……

だとしたら無線LANの中継器見たくマナを中継できないのか…行けそうである

イオシスも今度はイエスの回答を示した。

インターフェースが元々惑星レベルの通信距離に対応しているので、私とノートパソコンさえあればマナの供給は可能とのことである。

見通しが見えてきた。

あとは…


「私一人でせっせとマナの魔法使うのも癪よね…」

淡々と食糧を無から生み出しては、配り、生み出しては、配り……こりゃ誰かにやらせたい仕事である。

そうなると候補はやはりディオネ君に絞られるだろう。マナが特別に与えられた唯一無二の力ではなく、私への尊敬で生まれるなら…

よし、雑多ごとは言い出しっぺに任せるに限る。

私は脳内でディオネ皇子の修行計画を考えていた。私だって少し練習したらできるようになったんだ、国を救いたいという気持ちがあれば、なんでも出来る。はずだ……


ひとまず片付けなければならないことを考えている間、私は沈黙していた。

しくしくとエリスさんの涙声が聞こえた気もしたが無視している。

そして…

「どうされました?」

ディオネ君は一時間近くの長考の間、私の一挙手一投足をじっと見つめていた。

…その熱視線は…乙女心に突き刺さって離れない。

私はその向けれた気持ちに…いずれ堕ちるだろうと確信し自分のヘタレ具合に苦笑しながら、現実逃避とばかりにプログラムの概要を組み立て始めた。

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