17話 ~ちょっと待て、三次元は、犯罪だ~
現れたのは身長は私の胸元ぐらい、ショートカットで金髪。そして女の子と言っても通用しそうな均整のとれた美少年だった。
ドキッと、私の心臓が撃ち抜かれたような衝撃に立ちくらみを起こしている。
「…?」
やばっ、凝視していたら少年が怪訝な表情を浮かべていた。
私は深呼吸して、ローブの裾を軽くつまみ練習通りにお辞儀をする。
「はじめて。アイリスと申します」
ぺこりと一礼すると互いに手振りし、応接室のソファーに座るよう促した。
ディオネ…皇子(くん付けは失礼だろうと堪えた)は落ち着き払った仕草でちょこんと座ると
「この度はお会いできて光栄です」
と、笑顔を振りまいた。
眩しすぎる…
「…」
私が固まったままぎこちなく握手を求めると、ディオネ皇子はその小さな手で握り返してくれた。
いやぁ、こちらの調べだと確か第二皇子は十代半ばと掴んでいたが、その容姿は小学校にすら見える。ついでにいうと私のストライクゾーンだった(腐女子カミングアウト)
私が使い物にならなくなってしまったため、会談はエリスさんが進行してくれた。
帝国では領地からの農作物の収穫が不作でちょっとした食糧危機が起きているという。
イオシスの偵察ロボのおかげで、交渉はこちらが有利であることは確信していたのだ。
私たちの事前に掴んだ情報をニケくんが突きつけると皇子は真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「その通りです。故に貴女たちの協力を求めて僕が今回出向いたのです」
少年の眼差しは民を憂う為政者そのものであった。
「虫のいい話ですわね」
エリスさんは少し声に怒気をはらませている。
「帝国がこの地に私たちを追いやった歴史はどういたしますのかしら」
「今更、食糧目当てにこちらに頭を下げられても歴史は取り戻せないな」
このやり取りは交渉の探りである。帝国に迫害された信者がマナの力を使える。
その前提にどう相手が切り返してくるか。
「僕は民を差し置いて、この地に兵を送る父の考えは間違ってると思います」
皇子の言葉に迷いは感じられなかった。
「虫のいい話だとは承知しています。帝国皇子として過去の帝国の行いについて正式に謝罪いたします」
ディオネ皇子は深く頭を下げた。
これには一同唖然を食らっていた。
軽い牽制で過去を持ち出したのだが、実は私達は帝国にあまり憎しみを感じていない。
自給自足で完結した集団である。
迫害されてたと行っても過去の話。アイリスという信仰対象が具現化した今、全ての歴史は必然性のあるものと解釈されていた。
ましてや今の生活空間は私の現代的な感覚から、外よりもより良いものとなっている。
マナの修行が目的と手段が曖昧になっていた過去と同じように、私が外に出る計画も必ずしも急いで達成する目標では無いのである。
「誤りを素直に受け止めて前に進む分には構わないわ」
私は静かに言い放った。
大切なのは未来であり、平和だ。
ここは素直に謝罪を受け入れよう。
「感謝致します。アイリス様」
人を導く人間とは、生まれながらに性質が違うのだろう。皇子の一挙手一投足を見ながら私はそう感じていた。
民のためならこの場で危害を加えられても構わない。そんな強い覚悟がこの少年からは感じられたのだ。
「それで、あなたになにができるのかしら」
この地に来た時点で何か策がある。私は確信していた。
「…」
皇子は真っ直ぐ私を見つめる。
心臓に悪いイケメンオーラである。
「帝国内にはアイリス教を異端視しない一部の派閥があります。僕もその一人です」
…まさか。嫌な予感がした。
皇子はすっと立ち上がると私の前にひざまつく。
「マナのめぐみのために僕をアイリス様の下僕にしてください」
ちょっと待てぇぇ
「はぁ!?」
「お話して確信しました。貴方は帝国を救う力と慈悲に満ちている」
こらこら、ハードルを勝手にあげるな!
「げ、下僕はないわ…」
「そんな…」
つぶらな瞳に見つめられ、私は動揺していた。
「いや、ごめん、なんか言葉の響きにやましい気持ちになりそうで…って貴方立場ある人間でしょ、そんな簡単に自分を蔑むような立場に落ちちゃいけません!
言いながら私の心臓は今にも破裂しそうだった。
危うく腐女子の夢に堕ちて行きそうな衝動とも闘っている。
「ちなみに信者もだめよ、私は求めてないから」
「そんな、父にはアイリス様の下にくだると手紙を書きのこして来たんですよ」
なんてことしてくれる、このガキ…
思わず感情が高ぶってしまった。
誰も何も言えない空気の中、エリスさんは落ち着き払っていた。
私は救いを求めるように視線を送る。
「では、婚約してしまいましょう」
おい、待て
「なるほど、その手がありましたね」
一同がパッと明るくなりエリスさんに拍手を叩いた。
「なぜそうなる」
「信仰も服従も求めぬ仲、つまり対等な関係…そして敵同士の男女が結ばれる。素敵じゃないですか」
…確信しました。エリスさんもこっち側の素質があります。
「あのアイリス様がよろしければ…」
ディオネ皇子も顔を少し赤らめながら俯いていた。
視線が私に集まって再び空気が凍りついた。
「お、…お友達からお願いします…」
前世からのヘタレ喪女の私は、それしか答える言葉を持たなかった。




