16話 ~女子会気分で帝国会談~
すっかりと気分は回復した。まあまたハイに入ってないかは心配だが、あの日以降エリスさん、マリアちゃんの表情が柔らかくなったのだ。
息が詰まるような洞窟生活も、女子三人の絆があると楽しいものである。
私から信仰ではなく仲間意識を持って欲しいと言われた二人も困惑していたことを打ち明けてくれた。
「アイリス様も一人の女の子なんですよね」
とはエリスさんの言葉である。
「夜中に泣いてるアイリス様…不覚にも愛おしいと思ってしまいました」
とのマリアちゃんの告白には、別の意味で泣きそうだった。
尊すぎる。
私は明るい邪教計画に二人へのお礼を込めて茶菓子作りを加えることにした。
甘味も味覚のイメージである。イオシス曰く、五感の再現は自動プログラムの範囲内で、食事関連は簡単に作り出せるとのことだ。
ついでに女性専用応接室を新設し、そこでのお茶会が洞窟内の新たな日課に加わったのである。
一応男性信者にも申し訳ないので、一般の応接室で私たち三人がマナの魔法の成長が著しい信者に私の世界の食事を振舞っている。
これもまた好評で、信仰心のイメージが強化されたのか…信者たちが使うマナの力は以前に比べ五割増しに強化されたのは余談である。
さて、目的のない力は無駄な行為である。
私たちはこの力を使って洞窟の拡張をすすめていった。
むき出しの岩は垂直の壁に削り、床も平らにバリアフリーを推し進めている。
洞窟からちょっとしたダンジョンといえるまで生活空間は整ってきた。
イメージが五次元エネルギーを引き出すというのがマナの本質だという。イオシスを作り出した文明は感情と五次元を繋げてエネルギー問題を解決したのだというのだ。
つまりは人間の基本的な衣食住と人の繋がりを整えれば、エネルギーは増していく…私はその事に気づき心の調子を取り戻していったのだ。
「さて、明日は帝国の使者が参りますわね」
エリスさんが少し顔を緩ませながら久しぶりの幹部会を始めた。
使者の会談日が設定された以降帝国の侵攻は一時的に止まっている。
幹部たちも洞窟拡張に忙しく、ここのところ私の部屋に集まる機会がなかったのだ。
「邪教っていう暗い印象はだいぶほぐれたはずよ。みんなありがとう」
私はぺこりと一礼する。
ニケくんやカミラくんはまだ恐れ多いというギョッとした表情を一瞬見せるが、他の女子二人は平然とクッキーを食べていた。
「会談はやはり帝国内でのアイリス様の身の安全の保証ですな」
男性陣からは現実的な意見が飛び出してきた。
「引き換えにこっちは何が提供できるかしら」
私は交渉の材料を考えている。
ご飯目当てで邪教の教祖こと私の身柄を保証してくれるほどあちらも間抜けではないだろう。
それに一回目の会談で話しがそこまで通じるとは思えない。
エリスさんの事前交渉では相手の要求はマナの力の譲渡との事だ。
無から有を作れる力。これは為政者にとっては脅威であり、また手に入れたいものであろう。
私は私で、信仰心ではなくイメージからマナの魔法を行使できるようイオシスの基本プログラムを書き換えていたのだが、上手くは進んでいない。
光のマナ、雷のマナを利用した現代的な応用も、私しか使えないのであれば交渉の材料にはならないだろう。
「マナの信者以外への解放は賛成なんだけどね」
私はことなげにのたまう。
マリアちゃんやエリスさんにはその真意を話してあったが、男子二人には寝耳に水だったようだ。
二人とも顔が青ざめている。
「落ち着いて、帝国と共存共栄するなら少しぐらい力を貸してあげてもいいってこと」
「アイリス様の素晴らしさから帝国内にもマナを使える人間の派閥を作ればいいってことですわよ」
エリスさんが補足してくれた。
それに伴う厄介事は増えそうだが、少なくとも味方は…というより敵ではなくなりそうな人間が増えるに越したことはない。
そんな曖昧な決定で幹部会は終了した。
翌日。
「お久しぶりです」
まずは近衛団長が一人で洞窟にやってきた。
互いの身の安全のためにこちらからはカミラくんに犠牲になってもらい人質として帝国の兵士に差し出される決まりとなっていた。
ちなみに男子二人にくじ引きでこの役割を決めさせたのは内緒である。
会談場所は一般応接室。マリアちゃんが気合いを入れて作った料理を取り囲みながら和やかに互いの立場を話し合う。
その要の料理には鍋を選ぶことにした。
ここら辺の感覚は会談のシミュレーションを女子会で何度も重ね、一番ウケの良かった料理が野菜鍋だったからである。
毒味役もいらないし、なにより打ち解けあうには鍋を囲むのが最強の交渉術である。まあ私見だが。
周囲の村から新鮮な野菜を仕入れ、調味料はイオシスに再現してもらった。
「では、時間になりましたので閣下がまいられます」
団長の話によると招かれるのは帝国の第二皇子とのこと。
海千山千の相手にこちらの鍋パーティー作戦がどこまで通じるか…
シミュレーションは重ねてきたがゴクリと喉がなる。
コンコンと扉がノックされ…
「はじめてアイリス様。僕が今回の交渉団長…ディオネです」
十歳ぐらいの金髪の少年が入ってきた。




