11話 ~地道な準備は嫌いじゃない~
前世の記憶で再現出来た物。パソコン、ベニア板、ダクトテープ。
とりあえずこれだけあれば簡易ステージが作れるのだから、やはり人類最強の発明はダクトテープである。
さておき、普通なら無からなんでも作り出せるなら美味しい食事なりなんなりを作っていくのだろうが、そのプログラムには頓挫していた。
イオシスいわく、中途半端にこの世界にある物の改変は難しいとの事である。
しかもプログラム自体が洗練されてない。
学習自立型のコンピュータ故に、私の記憶を元だけではどうしても偏りが出てしまうようだ。
「うーむ」
「どうされましたアイリス様」
エリスさんが疲れた顔を滲ませながら尋ねてきた。
寝ていいと行ってるが律儀に私に付き添っているためか睡眠時間が取れないようだ。
私はそんなに眠くないのは肉体年齢の差かと、経験者故の考察を立てるが、そこを指摘するのは酷な話である。
その代わり、今直面している問題を相談してみた。
「石版にね…」
私はコンピュータの概念を簡単に説明し、まあ、人格が宿っていることをエリスさんに教えてあげた。
一つ考えていることがある。
イオシスの外部センサーをこの世界の野生動物に搭載して、ドローンのように偵察に向かわせるというアイデアである。
多少例え話を交えながらも何とか説明を終えるとエリスさんは少し考えながら
「でしたら、ワンちゃんか猫ちゃんがいいですね」
と、恥ずかしげなく教えてくれた。
この世界も犬猫は愛玩動物で、野良で徘徊していても危害を加えられることがないようである。
「ワンちゃんね」
「私は犬派です。マリアは猫派ですが」
うーむ、犬派と猫派の対立は宇宙共通のテーマなのか…
イオシスに今の議論を送り込むと、機動性の観点から犬を選んでくれた。
イオシス自体の選択なので不毛な議論に巻き込まれなくて済みそうである。
『アイリス様の記憶と視認できる範囲の野生動物のデータからベースのプログラムを自動設定致します』
イオシスはそういうとまたまた膨大な情報を私に流し込んでくる。
正直、脳がピリピリするのでやめて欲しいのだが、私を外に出してくれない過保護な信者どもがいる限り、偵察用のツール作りには致し方ない犠牲である。
さてさて、一通りのデータを受け取ると私は拙いながらもプログラムとアルゴリズムを考え始めた。
椅子にもたれ掛かると、エリスさんはじめ、幹部のみんながゲンナリする顔が見えたのだがそこは無視することにする。
長考の末、プログラムの骨格は出来た。
最近はみんなは信仰心よりも睡眠欲が勝るのらしく、私に無理やり睡眠を取らすべくマリアちゃん抱き枕作戦と私の趣味活に睡眠はいらない欲との駆け引きがあるのだが、「二人で寝ましょう(ハート)」なるマリアちゃんの尊いけしかけには抗えるはずもなく、イオシスのワンコ化計画は無駄に一週間かかってしまった。
『欲望の塊ですね、四次元生命体は』
と、五次元だか九次元だかと繋がってるイオシスにバカにされながらも、喋るワンコことイオシス犬のプログラムは完成した。
「可愛いですね」
猫派のマリアちゃんに合わせて小型犬をベースに作ったイオシスドローンだが、その性能は超技術の賜物である。
半径五キロ圏内のサーチと不整地路面での一日三十キロの移動能力、私やイオシス本体との同期機能…
プログラムにはそれなりに苦労したがなかなかの出来栄えである。
マリアちゃんが洞窟で飼いたいと言い出したあたり、文明の力が分からない一般人にはただの可愛い犬にしか見えないのも評価のポイントである。
イメージだけで火や水が生み出せるのだ。
私の先進文明とSFのイメージにかかれば、これだけのシステムは作れるのである。
『基準はあなたの記憶のおもちゃ犬とロボット掃除機をベースにしてますがね』
…まあ、予想していた答えではある。
ともあれ、悲しそうなマリアちゃんに見送られながら偵察犬は洞窟の聖域から解き放たれた。
これでマナの勢力圏の情報交換については進捗があるだろう。
とにかく私は外に出たいのである。
一ヶ月近く太陽の日差しを浴びていないのは精神的に来るのだ。
その第一歩としてアイリス・イオシスの分身は自動設定で周囲の偵察を開始した。
そう、家庭用ロボット掃除機のプログラムのように…
「さてあとは足りないものは何かしらね…」
幹部連中に聞いても答えは返ってこない。いかんせん物欲や娯楽欲にかけているのは文化的な背景があるから致し方ない。
イオシスは…
『あなたとの情報交換で多少自我が強化されましたが、基本的には欲はコンピュータにはございません』
うーむ、期待はしてなかったがつまらない答えである。
ノートパソコンに音楽再生のプログラムを書いて音響も何とか出来上がった。
ベニア板を強力テープでくっつけてステージもある。
何かが足りない…
そう、推されるファンが欲しいのであって、信者や信仰はあまり押し付けられたくないのだ。
何せ前世はストーキングされて命を落とした身である。
適度な「推し」感情で私を応援してくれる人…
『文化レベル的に「推し」という感情は私にもなかなか理解が難しいです』
イオシスですらこの答えである。
萌えと推しは、やはり私の前世の時代の奇跡の産物なのかもしれない。
まあ、課題はまだまだ残っているが地道に解決していこう。
そう心の中で誓うと、私は再び三日ぶりの睡眠に堕ちていった。




