09話 ~人生に推し活は必要だ~
「ということで緊急幹部会を始めます」
なにがということなのか、前置きを置かずに私はパンパンと手を叩いた。
幹部会と言っても、だいたいいつもの四人は私の部屋でたむろっている。
信者も各々マナの修行に励むだけという目的も達成感もない生活だ。
『あなたの世界の自宅警備員と似てますね』
野暮なツッコミだが、このイオシスとの脳内会話にも慣れ、断片的だがアイリスとしての自覚も出来てきた。
そろそろ動き出すときだ、と私はピンときたのだ。
「あなた達の教義は何?」
私は単刀直入に四人に尋ねた。
「…」
返事がない、『ただのしかばねのようだ』である。
おずおずとエリスさんが手をあげ、
「アイリス様への崇拝をマナの力で体現することです…」
マリアちゃんは、
「石版とアイリス様のお力でこの世界をマナに還元すること…」
カミラ君とニケ君にいたっては沈黙のまま返答すらない。
「…男子二人はマナの修行でもしてればいいって考えてない?」
ジト目で私は二人を睨みつけた。
図星だったらしく気まずそうに頭をかいている。
4人はそれぞれ弁明のように事情を説明してくれた。
いわく、邪教ゆえに聖域からあまり離れられない。
マナの修行が聖典の唯一の解釈となっている。
アイリスの復活を信じて待ち望んでいたが、その後は私が何とかしてくれると思っていた…
との事である。
「マリアちゃん以外全員正座!」
私は一喝した。
一応マリアちゃんはそれっぽい答えと、私の復活の後にお世話をするということだけ考えて生きてきたという神々しい回答をしてくれたので免除である。
『演算上、公平な判断とは…』
イオシスが何か言っているが私は無視した。
推しは尊いのである。
さて、全員に今のどうしようもない現実が伝わったところで、まだまだ私のターンである。
「目的無き手段は堕落よ」
私は言い切った。
少し言葉がきつくなるのは許して欲しい。この一週間、ただただ食う寝るのみの毎日を過ごしていたのだ。
マナの修行?
目的なく火の玉出せたところで何が面白いのだろうか?
しかもイオシスの意識と繋がり、本来の目的を朧気ながら刷り込まれた私ことアイリスにしてみれば、今の状況は堕落以外の何物でもない。
資源の無駄遣いそのものなのだ。
『アイリスが熱くなってるので私が補足します。第一次移民世代プログラムが遂行できていないことが問題なのです』
脳内相方が諭すように呟いた。
人口増やして定着させろってことなら、出来てるような気もするんだが…
『文明の資産が引き継がれず、退化していることにお怒りのようですね』
なんで自分の感情を人工知能に指摘されなきゃならないんだか…
少し冷静になった私は一考した。
正座してる三人は今にも死にそうなような絶望の表情を浮かべ、マリアちゃんも半べそをかいている。
「まあ、私が目覚めるのが遅かった…ついでに起きてからもぼんやりしてたのも問題よね」
そう考えるとみんなに悪い気がして、私も地べたに座り込んだ。
「目的なくマナが使用されてるのが無駄遣いならさ、目的を私が考えればいいのよね」
エリスさんの目がパッと輝く。
「もちろんです。この世界はアイリス様のもの。アイリス様が好きになされて構いません」
うん、言質はとった。
そうなるとやはり外の世界を知るべきだろう。
『外敵には絶対的ないわゆるバリアが施されています。信仰心がバリア突破の認証にすりかわわってしまったので、まずはそこをどうするかが問題ですね』
私より役に立つ脳内相方が助言をくれた。
信仰心と考えるからダメなのだ。
現代日本に生きていた私としてはもっと気楽に入れる入口が必要である。
「エリスさん、私を信じてる人ってこの洞窟の外には何人ぐらい、いるの?」
「各地の集落に信者が点在しています。マナの恩恵を受けているのは千人程度ですわね」
そこは神官長、事務的な質問に即座に答えを出てきた。
千人かぁ、昔の私なら千人もファン入れば十分だけどなぁ
バズるには足りない数字ね
イオシス、この世界の人口は分かる?
『およそ一千万人、ほとんどが例えるなら王権社会…あなたの世界でいう紀元前後のローマ帝国のような国家に属しております』
こちらも簡潔に答えを出してくれた。
ふむふむ、だいぶ見えてきた。
文明の基礎は出来ている。
マナという異次元の力で産業を近代化できる知識も力もある。
問題は文化だ。
「よし、決めたわ」
私は立ち上がった。
脳内で音楽を流しながら体を解し、
「ちょっとみてて」
と、地下アイドル時代のオリジナル振り付けを踊ってみせる。
白地のローブはなかなか踊りにくいのだが、代わりに見える心配がないため(何がとは乙女のプライドにかけて書かないが)、体のキレもよく、全盛期のキレキレなパフォーマンスを発揮出来そうだ。
『解析管理、記憶から音楽を再生します』
少し汗ばむほど踊ったところで鮮明な音楽が聞こえてきた。
私は体に染み付いた振り付けを無我夢中で踊ってみた。汗が飛び散るほど激しい振りにも体が耐えてくれるのが心地よい。
「よし、これでいきましょう」
音楽が終わると、私は息を荒らげながら4人の反応を見てみた。
みな感激したように涙をボロボロ流している。
これよこれ、娯楽がないと意味が無いのよ
「アイリス様の息遣い、激しい踊り…神はいたのですね」
「無音の世界で全ての視界がアイリス様だけに注がれました」
はて、少し反応が変なようだが…
『音楽は脳内再生ですよ、彼らには聞こえていませんよ、アイリス』
…これだから脳直な人工知能との会話は嫌なのである。




