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振り出しに戻った日からそこそこ経ち、特にイベントが起こらない、ゆっくり過ごせる貴重な期間に入った。
「セレス様、おはようございます」
「おはようパール。今日からはとうとう実践訓練が始まるね。やだな〜、野蛮な男どもを相手にしないといけないのか」
「そんなに野蛮な方はこの学園にはいないと思いますが……」
「……ま、野蛮くらいが手加減しなくて済むからいっか」
「セレス様……」
最近、パールに慣れたせいか、それともあの馬鹿王子と接触したせいか、私の素が露呈し始めてる気がする。
「おいチビ」
噂をすれば、余計な奴が割り込んできた。
「どうした馬鹿王子」
「またお前、まあいい、早くハンカチ返せ。いつまで持ってんだ」
「パールに謝るまでは返さないよ。それともお姉さんに預けた方がいいですか〜?」
「俺は王子だぞ、そんなこと許せるか」
「ごめんの三文字言えばいいことでしょうが。馬鹿は常識も知らないのか」
こうやって言い合いになるから、こいつと会うのは嫌なんだよ。
「セレス様、私はもういいですから」
「パール、こんな馬鹿でどうしようもない奴が、また謝罪をするということを覚えなかったら、この国の未来は真っ暗だよ」
「お前……。そうか、お前、俺に構って欲しくて難癖つけてるんだろ。本当は俺に話しかけられて嬉しいんだろ。前々から女には困らなかったが、ふっ、ついに男までも落としてしまったか」
何こいつ急にナルシストになってるんだ?
「馬鹿王子、お前の残念な妄想を勝手に語るのはいいが、とりあえずパールに謝れ。人ならそれくらい最低限の常識は身につけろ。それともお前はスライムの擬態か?」
「セレス様、本当にそこまで言ってはダメです。注意と悪口を履き違えてはダメですよ」
「そうだそうだ。パールといったか、お前金髪の平民のくせにいい事言うな」
とりあえず、馬鹿がパールに触れようとしたので、その手を叩いといた。
「とにかく謝れよ、馬鹿。パール、行こう」
「あ、え、その、王子様を放っていいのですか?」
「いいのいいの。音の割には強く叩いてないから。それに、女の子に勝手に触れるのは男としてどうかと思うし」
「セレス様、その言葉はご自身にも当てはまってますよ」
パールがそう苦笑いで言うので、手を辿ってみれば、あら不思議、手を繋いでいるではありませんか。手を離すのは、なんだかいけない事した感があるよね。私女だし。男と思われてる女だから、セーフセーフ。とりあえず上手く誤魔化してこのまま行こう。
「ごめん、パールを守りたくて。パールは手を繋がれるの嫌?」
「いえ、そんなことありません」
「なら良かった」
ここで言質取ったから、今後も癖で手を繋いでも問題ない!
私はパールと別れ、スカーレットの隣の席へと座る。
「最近あの平民と仲が良いのね」
「うん。可愛くて良い子だよ」
「そう」
スカーレットはそう言うと、なんだか不満のある顔をした。
「ねえ、スカーレット」
「何?」
「どうして平民で金髪だと悪いの? 貴族でも金髪はいるよね、ホリゾン王子様とか」
私がそう聞くと、スカーレットは呆れた顔を見せてきた。仕方ないではないか。お姉ちゃんが忙しくて、聞けなかったのだから。
「はあ……。あなた、一体何年貴族社会にいるのよ」
「貴族のしきたりとか面倒な事は嫌いってよく知ってるでしょ。僕にはスカーレットがいてくれればそれで良いから。それに、ダメなところはお兄ちゃんとお姉ちゃんがカバーしてくれるし」
「セレス、間違っても女性に惚れられる事のないように。あなたは実際女性なのだから、たとえ惚れられたとしても、その気持ちには応えられないのよ。あなたに惚れた女性も可哀想だし、あなたも何されるか分からないわよ。もし惚れられたら、しっかりと断るのよ」
「まあ、気をつけるよ」
現在主人公攻略中ですけどね。ていうか、どうしていきなりそんな話になった?
「それよりも教えてよ」
「一度しか言わないから、しっかり聞いてなさい」
「はい!」
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