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なんとか泣き止み、涙を拭おうとすると、目の前にハンカチが差し出された。
「悪かったよ。とりあえず、貴族なら袖でなくハンカチで拭え。それと、男なら女の前で涙は見せるな、みっともない」
正直、乙女ゲームでやっていた時、我が儘で少々イライラしながら攻略していたし、スカーレットが処刑される原因の一人だし、以前近づいた時、私の事を知らず、主人公にばっか目を向けてたから、個人的な印象は悪かったが、こいつにも常識的な良心があったんだと、少々感心する。
「謝るなら彼女に謝ってください。あと、ハンカチありがとうございます。今度返します」
「いい。お前が使った汚ねーハンカチなんて使いたくねえよ」
前言撤回。やっぱこいつ嫌いだわ。しかし、主人公はこんな奴にも惚れるんだよね? 攻略できるのもだけど、こんな非常識な奴を好きになるって、主人公も主人公で中々にやばいな。
今のパールには間違った道は歩かせないようにしよう。
「パール、付き合う人間はちゃんと選ばないとだめだよ。特に、いくら身分があるからって、良心を持っていない人間なんかと付き合ったら碌な事にならないからね」
「おい、それは俺に向かって言っているのか?」
「おや? 心当たりでもあるのですか、王子様?」
「あっ? お前やっぱハンカチ返せ! 涙と鼻水で汚くなった顔で寮に帰れ!」
私は見せつけるように涙と鼻水を拭った。
「いいですよ、もう必要無くなったので返します」
そう言った時のアラゴンの顔と来たら、写真に保存してやりたいぐらいだったよ。
「ふふっ、すみません」
私とアラゴンが言い争っていると、パールが口元を隠しながら、おかしそうに笑った。
「なんだ平民、何か文句でもあるのか?」
「い、いえ」
「何圧かけてんだ、この馬鹿王子」
「ああ、何が馬鹿だ! 今度こそ本気で殴るぞ!」
「いいよ、返り討ちにしてやる」
再び言い争っていると、またパールが笑った。
「お二人は仲がよろしいですね」
「「どこが!」」
不服にもハモってしまった。パールが変なこと言うから。
「王子様は威厳があり、その、近寄り難い感じでしたが、セレス様と言い合っているのを見て、なんだか私達が思っているほど、キツいお方ではないのかと思いましたので」
「つまり、我が儘暴君の馬鹿王子だから、皆んなが権力に怯えて近づけないってことだよ。あれ、もしかして今まで友達いなかったの? ぼっち? 可哀想〜」
「てめー、まじで許さねぇ」
「あれれ〜、一応にも王子という身分の方が、私情を挟んじゃっていいの? ん? 僕一応そこそこ良い身分だし、君のお姉さんとも仲良いよ〜」
「セレス様、流石にそこまで言うことはないと思いますよ」
と、言いつつ私が言ったことは否定しないと。
「分かった。とりあえず、ちゃんとごめんなさいして。そうすれば、娯楽小説の話に付き合うくらいはしてあげる。ね、パール」
「え、あ、はい」
アラゴンに向き合うと、アラゴンは視線を逸らした。
「ふん、馬鹿らしい。ハンカチ、ちゃんと洗って返せ。やっぱりお前の手元にあるのは許せねえ」
そう言って、アラゴンは私達の元を後にした。
ごめんの三文字くらい言えよ馬鹿王子。
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次話:明日