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 検査を終え、特に問題がないという事で退院する事になった。

どうせならクズの顔を嘲笑ってやろうと病室に向かったら、先客がいたようだ。


「お目覚めになられたのですね」

「ああ」

「体に異変はありませんか?」

「特に」


ああ、ムカつく! パール相手ならもっと丁寧に答えるくせに、スカーレットには塩対応かよ! せめて一発ぶん殴りたい。いや、殴らせろ!


「何度も足を運ばせたようだな」

「セレスの様子も兼ねてですので、そこまで苦ではありませんよ」


スカーレット来てたのか。昨日はお兄ちゃんとお姉ちゃんが面会時間ギリギリまでいたから会えなかったってところか。


「すまなかった。お前達を危険な目に合わせた。あの状態でも、出来事はしっかりと覚えている。しかし、はは、俺の見舞いに来てくれたのはスカーレット、お前だけか」


クズは乾いた笑いを零し、俯いている。


「あいつの言う通り、もっと他人を見るべきだったな」


クズの目はどこか寂しそうだ。あまり気にしていなかったが、クズはいつも一人だった。パールが側にいなければ、この学園生活、ずっと一人で過ごしていたのだろう。体が弱っている今、普段大丈夫な事も辛くなる。可哀想な奴だな。


「そうですね。もう少し早くその事に気づいていれば、結果は変わっていたかもしれません」


スカーレットは以前来た時に入れていたと思われるペンと紙を、ベッドの横にある引き出しから取り出した。


「私は、あなたのことが好きでした。ですが、それ以上に私はセレスが大切です」


お、おお〜?


「セレスが嫌いでも構いません。あの子の性格は、人から反感を買いやすい事も分かっています。特に男性に対しての態度は。ですが、いくら操られていたとはいえ、セレスを傷つけようとした事は許せません。

あなたに嫌われる事よりも、無関心でいられる事よりも、私にとってセレスを失う事が何よりも怖いのです。

あなたが与えてくれなかった愛を、セレスが与えてくれました。ですから私は、見返りがなくとも、たとえ気持ちが別の人にあろうと、あなたが好きという感情だけであなたとの関係を続けてこれました。が、もう無理です。セレスを傷つけようとしたあなたを許せません。お願いです、婚約破棄してください」


スカーレットの手が震えてる。声も嗚咽が混じっていたように聞こえた。泣いているのだろう。

クズ、女の子を泣かせるのは大罪だ。


「これは」

「婚約破棄に関する書類です。両家の両親、そして私のサインは既に書いてあります。あとは、アッシュ様がこちらにサインしていただければ、私達の婚姻関係は解消されます」


クズは迷っていたのか、少ししてから書類にサインした。


「ありがとうございます。それでは、お大事に」


 スカーレットがこっちに来るので、慌てて隠れようとしたが、隠れる場所などないため、通りかかったふりをする。

スカーレットの事だ、私にさっきの言葉を聞かれるのは嫌だろう。


「あれ? スカーレット? どしたの? まさか、わざわざあいつの見舞い?」

「それはついでよ。やるべき事を済ませたの。あなたこそどうしたのよ?」


見舞いをついでか。あのスカーレットがそんな事言うなんて、本当に気持ちが冷めたんだな。


「起きてるようなら嘲笑ってやろうかと」

「ほんと、良い性格しているわね。そんなんだから嫌われるのよ」

「いいよ。私もあいつ嫌いだし」


スカーレットはまったくもう。って言いたげな顔をしている。


「ま、それだけ言えるくらい回復したなら良いわ。パールが寂しがっているわよ」

「パールは来てないの?」

「私はアッシュ様の婚約者だったから学園があっても関係なく来れたのよ。セレスも目が覚めたって事は学園来るわよね?」


クズにはあえてその事を言わなかったんだろうな。いや、そんな制約なくとも、クズの見舞いにわざわざ来る奴なんていないか。来てもパールだけだろう。あいつ友達いないし。


「うん。ちゃんと女の格好していくよ」

「あらそうなの? 結構似合っていたのに」


スカーレットは驚きを含んだ残念そうな顔をした。


「みんな私の男装好きすぎでしょ」

「ええ、とっても。それじゃあ、私は帰るわ」

「うん。あ、スカーレット、はい」


私はスカーレットにハンカチを差し出す。


「なに?」

「私からの愛だよ。涙、ちゃんと拭きな」


私の言葉を理解したと同時に、スカーレットの顔が赤くなった。


「あなた、聞いてたの⁉︎」

「いやー、私愛されてるな〜」


スカーレットが嫌がるなら、そのチャンスは無下にしない。私はそういう奴だから。


「もう、なんで聞いてるのよ!」

「聞こえちゃったから。でも、本当に良いの? 散々言ってた私が言うのもなんだけど」


スカーレットは私の肩から手をどけ、目線を逸らした。


「良いのよ」

「でも──」


今度は真っ直ぐ私を見る。


「セレスは側にいてくれるのでしょう?」

「まあ、そうだけど」

「なら十分よ。見返りがなくても構わなかったけれど、奪おうとすることだけは許せなかった。それだけよ。それじゃあ、本当にもう帰るわ。学園で待ってるわね」


スカーレットに笑顔を向けられて、これ以上何も言えなかった。辛そうなのに、どこかスッキリとしている笑顔。

私が欲した笑顔ではないが、十分満足できるものだった。


「うん、また」

実はこの話、婚約破棄endか和解endで悩んでたんですけど、さすがにあそこまでしていたクズを擁護できる言葉が思いつかなかったんで婚約破棄endになりました。


(ちなみにセレスも人の事言えるほど友達いない。本人は作らないだけって言いそうだけど)

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