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私はパールとアラゴン王子の間に入り、眼光を鋭くしてアラゴン王子を見る。
「僕達はただ娯楽小説を読みにきただけです。この棚には娯楽小説しかありませんが、アラゴン・カラー第二王子様もお読みになられるのですか?」
おそらく、アラゴンが威嚇してきた理由は、私やパールに娯楽小説を読んでいる事をバレないようにする為だ。
アラゴンに睨まれれば、大抵の者は近寄らないだろうから、今までこうやって人を退けていたのだろう。
「お、俺は貴族だ! カラー王国の第二王子、アラゴン・カラー様だぞ! そんな高貴なる存在である俺が、こんな低俗な娯楽小説など読むはずがないだろ! 馬鹿にしてるのか?」
プライドの為に自分の好きな物を貶せるなんて、哀れな奴。
「……さい」
「あ?」
「取り消してください! 確かに貴族の方から見れば学の無いものかもしれません。ですが、読んだ事もないのに悪く言うのはやめてください! 好きな物を貶されるのは、一人になるのと同じくらい悲しいです!」
おっと、これは反論選択肢だ。てことはやばい、好感度が上がる。
「お前、平民のくせに俺に文句言うのか!」
今にも手を出しそうな勢い。たしか、主人公がこの迫力に怯まなければ、ふっ、面白い女って感じでアラゴンの好感度が上がったはず。つまり、ここで止めなければならない!
「騒ぎを起こすのはやめたほうがいいですよ。ここは娯楽小説の棚の為、人はあまり来ませんが、音が立てば野次馬がやってきます。印象を下げたいのですか? ですが、もしそれでも彼女に手を出すというのなら、僕が許しません」
パールが完全に私の背に隠れられるように、私は前へと出た。
「平民のチビが何偉そうに言ってるんだよ」
「半笑いで馬鹿にしているところ悪いが、僕はこれでも貴族だ。悪いね、貴族が低俗な娯楽小説を読むのが好きで。でも、それは王子様も同じでしょ。娯楽小説を読まない人間が、わざわざ隅っこの暗いこんな場所に来るはずないもんね」
アラゴンの顔がきついものとなった。これは、余計な事を言ってしまったかもしれない。
「ふざけんな、この下級貴族が!」
「セレス様!」
パチン。と、劈くような音が聞こえた。しかし、私に痛みはない。
私の目には、少々驚いた顔をしたアラゴンと、頬を赤くしたパールが写っていた。
私の中の何かが、プツンと切れた気がする。
「いくら王子だからって、人に手を出しちゃだめでしょ! 正論言われて何キレてんだ、この馬鹿王子! そんなんだから、ホリゾン王子とスカーレットと比べて落ちこぼれって言われてるんだ!」
私が言った言葉が、アラゴンに取って一番言われたくない言葉だって分かってる。だけど、言わずにはいられなかった。
「セレス様、そこまで言わなくても良いと思います。私は大丈夫ですから」
「そもそも、お前が勝手に前に出てきたのが悪いんだろ。元々殴るつもりなんてなかったし」
「責任転嫁をするな。私はあんたに言い過ぎた事を謝る。だから、あんたもこの子に謝れ」
私が一歩詰め寄ると、王子は一歩引き下がる。
私が頭を下げると、王子は一瞬ビクついた。
「先程のご無礼、大変申し訳ありません。王子様に不敬な事をおっしゃったこと、許してほしいとは思いません。ただ、分かってください。彼女を殴った事に対して、これほど怒ったということを。
王子様には分かりますか? 親しき仲の友人が、か弱い女の子が、いじめや迫害により、自ら命を絶ってしまった事を。
ほんのちょっとの失敗で、見せしめ、のように、公衆の、面前で、何度も、何度も、わた、僕の目の前で、殺されるところを、見てしまう苦しさを。
助けられなかった後悔を、王子様は知っていますか!
ですから、もう、傷つけないでください。我慢、させないでください」
アラゴンも、パールも、泣いている私をただ見ていることしかできないようだった。
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