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後ろに手を引っ張られ、よろけた私の体は受け止められた。
「ダメです、セレス様」
聞き慣れた声。振り向かずとも分かるその人物。
「私は、シャルト様としっかり話さないといけない。私が、シャルト様を傷つけたから」
「よく見てください! 今、シャルト様の人格はほぼないのと同じです!」
パールにそう言われて、盲目的になっている目で見つめ直した。
さっきとは違い、何かを抑え込んでいるようには見えない姿。
「君のせいだよ。この子がこんな風になったのは。今まで感情の起伏をほとんど起こさないように自分を殺していたのに、君がこの子の感情を揺らしたから、えーっと、ワタシ? が完全に出てきちゃった」
前見たクズと同じだ。赤く燻んだ瞳。けど、今回は変に自我を持っているように見える。まるで、操り人形がAIになったような感じ。
「あなたは、シャルト様じゃない」
「そうだよ。ワタシはこの子の体に潜んでいた禁忌魔法。そうだね、パンドラとでも呼んだらいいんじゃない?」
「そっか。パール、聖魔法は使える? これ、祓ってほしいんだ。話す必要があるのは、パンドラじゃなくてシャルト様だから」
「簡単に言ってくれるね。たしかにワタシはこの子じゃないけど、ワタシをここまで大きくしたのもこの子。それだけワタシとこの子は繋がっている。意味分かる?」
分かるよ。ほんと、親切なのか迷惑なのか。でも、一つ確信したことがある。パンドラがそんな話をするという事は、パールの聖魔法は効く。パールが魔法を使いにくいようにした。それだけ、パールの力がすごいということ。
まあそのおかげで、私とパールは禁忌魔法の餌食にならないで済むんだけど。
「パール、私に保護魔法かけられる?」
「できますけど、セレス様、無理をなさる気じゃ……」
「違うよ。ただ、シャルト様とパンドラの繋がりを少しでも緩くする。パールならその瞬間が分かるでしょ。お願いできる?」
「……本当に、無理してるじゃないですか。分かりました。私にまかせてください」
パールに全てを預けて、私はシャルト様と向き合う。いくら禁忌魔法に支配されているといえど、パールの手前、多少は出てきやすいと思う。大丈夫、私ならやれる。今度こそ、救い出す。
「シャルト様、聞こえていますか? シャルト様の苦しみに気づけず申し訳ありません。昨日の外出、本音を言うと最初は乗り気じゃなかったんです。貴族のようなお堅い付き合いは物心がつく前から苦手でしたので。ですが、シャルト様との外出、いえ、デートは思ったより楽しかったです。正直ああいうことには慣れてなくて、スムーズに事が運ばず、ほんと、自分は頼りないって思わされました。ですので、少しカッコつけさせてください。パンドラじゃなくて、シャルト様にこのネックレスを受け取ってほしいです」
念の為にと思って部屋に取りに行ったネックレスを見せる。
「無駄だよ、この子はワタシには勝てない」
パンドラは余裕の笑みを見せている。
「そうかな? 私はシャルト様の事を信じているよ。パンドラが今私に何もしないのは、いや、できないのは、パールの力もあるけど、シャルト様が必死に抑えているからだよね。だから、信じている」
そう言いながら、シャルト様の首にネックレスを掛ける。
その瞬間、瞳の色が戻った。
「私は、セレス様に酷いことを言ってしまいました。本当に、申し訳ありません」
パンドラの力が弱まったのか、シャルト様が戻ってきた。
「いえ、ちゃんと説明していなかったのが悪いのです。こちらこそ申し訳ありません。本当に、シャルト様と婚姻関係を結べない理由があるんです」
「聞かせてもらっても良いですか?」
「……女、なんです。訳あって男性の格好をしていますが、実は女なんです! ですから、私はシャルト様と婚約は出来ないのです!」
シャルト様からの返事がない。色んな意味で、少々不安でもある。
「セレス様! 後ろです!」
パールの掛け声に反応して顔を上げると、いつの間にかクズが立ち上がり、私達目掛けて剣を振ってきた。
それを私は間一髪のところでシャルト様と共に避けた。が、クズは止まる事なく剣を振る。
尻もちをつき、シャルト様を抱えている状態じゃ避けられない。
パールも私に禁忌魔法がかからないように注力しているせいで下手に動けない。
これはまた、繰り返しコースかな。
たいっへんお待たせしました! 実は一回投稿するのを忘れたことで、もういっそのこと最終話まで書いてから投稿しようと思い、かなり時期が空いてしまいました。
推敲の関係上、本日から毎日一話ずつ投稿します。時間帯はできるだけ昼に合わせます。ちょうど一週間後に完結が出せる予定です。
ここまでお付き合い頂いた読者様、最後までよろしくお願いします。