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 高校でも友達はできたし、それなりに充実していた。けど──


「テストやばい! 助けて!」

「また〜」

「だってこの学校誰かさんに頑張って合わせたから学力合ってないんだもん」

「それでも誰かさんはレベル落としたけど」

「何それ嫌味?」

「うん」


こんな会話を聞くと、私もレベルを落としてもらってでも、同じ高校に入れば良かったと思った。流石にそんな事言えないけど。けど、そう思ってしまう。


「奏音、そっちはどう?」

「うん、平気だよ。いつ、つも通り」


奏音の声色が日に日に暗くなっていくのを感じていた。


「本当に?」

「うん、平気だよ。大丈夫」

「無理しなくても良いんだよ」

「本当に大丈夫だ、だよって。空は過保護す、すぎ」

「なら良いけど。そういえばもうすぐ夏休みだよね」

「そうだね。あ、ゲームの進捗どう?」

「夏休み中には終わると思う。妙にムカつく俺様王子とクール公爵は攻略したから」

「空が苦、が、手そうなタイプだもんね」

「だってあいつらおかしいでしょ。俺様は主人公に喧嘩越しだし、クールは婚約者眼中なしじゃん。でももういいんだ。残り一人はまともだから」

「一番簡単だしね」

「うん。終わったら返すよ。あと遊ぼ。夏祭りもあるし、一緒に行こ」

「うん。行こうね」

「約束だよ」

「うん、やくそ、そ、く」


けど、この約束は果たされなかった。


 夏休み中、連絡が取れない日が続いたので、ゲームを返すついでに様子見を兼ねて奏音の家に行った。この時ほど自分の行動の遅さを後悔したことはない。

奏音が死んだ事を教えられた。自殺だったらしい。いつ教えるか、奏音の両親もずっと悩んでいたらしかった。


「本当によくしてもらっていたのに、ごめんなさい。これ、あの子があなたにって」


奏音の母親からは、遺書と思われる手紙を渡された。

そこには謝罪が書き記されていた。そして最後はこう締めくくられていた。


『大丈夫って何度も自分に言い聞かせていたけど、ダメだった。私は思っていたより弱かったみたい。本当にごめんね』


奏音は優しいから、私がゲームを終わらせるまで連絡してこないのだろうと思い込み、連絡が途絶えた事を不審に思わなかった自分を恨んだ。奏音の大丈夫を信じきって、何もしてあげられなかった自分に怒りが湧いた。行き場のない怒りがずっと私を責めていた。


「すみません、奏音のスマホ、少しの間預かっても良いですか? 奏音、SNSやっていたので、説明とかして消した方が良いと思うので」

「それはやった方が良い事なの?」

「はい。奏音、SNS上で仲良い人何人かいたので」

「そうなの。おばさん、そういうのはよく分からないからお願いします」

「はい」


 そうやって嘘をついて借りた奏音のスマホでまずやった事は、犯人を見つける事だった。

グループに入っていればそこから。いなければ高校の情報から。と思っていたが、そんな必要はなかった。奏音は、メモで毎日日記をつけていた。誰に何されたか事細かく。そして最後に自分を励ますメッセージ。

どうしようもない罪悪感に駆られながらメモを全部見終わり、主犯となった三人を絞り出した。名前さえ分かれば友達を頼れば良い。


「あのさ、ちょっと知りたい人がいるんだけど──」


私の友達は顔が広い。近くの高校の人とは高確率で繋がっているため、名前さえ分かれば顔も簡単に知ることができた。


「こいつらが奏音を……」


奏音を殺しておきながら、こいつらはのうのうと夏休みを謳歌していると思うと、耐えられなかった。死んでほしかった。けど、奏音はそんな事望んでいない。だから、せめて自分達が行った事を悔いてほしかった。そして、奏音に謝ってくれるだけでよかった。


 けどその前に、夏休みは終わった。


「皆さんに残念なお知らせがあります」


 この知らせが、私が道を踏み外すきっかけとなった。クラスメイトが死んだ。事故だった。その知らせだけで、クラスはどんよりとしたなんとも言えない空気に包まれた。特に仲の良かった彼女に関しては、生気を感じられなかった。当然だと思う。特に関わりのなかった私でさえ、寂しくなった。良い人だったから。


私はそんな気分の中、知らず知らずのうちに奏音の高校に来ていた。奏音のクラスでも、奏音がなくなった事はもう伝えられているはず。なのに、なのにどうして、あいつら三人は笑ってるんだよ。


「しかし、今朝のはびっくりしたよな。まさか死ぬとは思わないっつーの」

「今晩化けて出るんじゃねーの。恨めしや〜って」

「あいつにそんな度胸ねーだろ。だってあれくらいの事で死ぬ奴だぞ。それに、言うとすればう、う、ら、ら、め、め、し、し、や、や〜だろ」


ギャハハハと汚く笑っている彼らに対し、私はいつの間にか襲いかかっていた。


きっかけは知らせから? ううん、違う。本当はもっと前から。じゃなきゃ、ナイフなんて持ち歩かないでしょ。きっと、こいつらの事を知った時点で、私は知らず知らずのうちにこうなる事を予想していたんだ。


「ごめん、ごめんね、奏音。守れなくてごめんね。こんな私でごめん」


泣いた。知らせを聞いた時よりも酷く泣いた。私のエゴで、奏音の望まない事をしてしまったから。そして、決心した。


「お父さん、お母さん、親不孝な娘でごめん」


こいつらが原因で警察にお世話になって両親に迷惑をかけるくらいなら、私は奏音に謝りにいこうと。だから私は、ナイフを首に立てた。

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