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そして、放課後がやってきた。
「どうせなくなる今日、か」
たしかに、馬鹿の言う通りかもしれない。どうせなくなるなら、いっそ全部言ってしまおう。
スカーレットだけは、末路が末路なだけに言えないが、パールなら受け止めてくれる。一度くらい、当たって砕けてみよう。
「お待たせしてしまい申し訳ありません、セレス様」
「ううん。大丈夫だよ」
そして、いつも通りの事を聞いた。シャルト様のこと、過去の事、そして──
「セレス様は、身分差同士の恋愛についてどうお考えでしょうか?」
今日返す言葉は、いつもと違う。
「パール、答える前に一つ、質問してもいい?」
「どうぞ」
「現実的に考えて、同性同士の恋愛ってどう思う? いや、現実的ってより、パール自身にとって」
「え、そうですね……」
パールは少し思案すると、優しい笑みを溢した。
「素敵だと思います」
その返答に、救われた気がした。
「同性であろうと、惹かれ、互いが互いを思う。私は、愛に制限がないように、恋も様々な形があると思います。多くの人は障害の多い恋愛と思うかもしれませんが、異性間であっても多くの障害はあると思います。異性も同性も、然程変わりません。ただ、好きになった相手が同性なだけ。それだけだと思います」
「……そっか、ありがとう。おかげで救われたよ」
「セレス様?」
「女なんだ、私。騙すような事をしてごめん」
「……そうだったんですね」
「驚かないの?」
「驚いたら、セレス様に失礼かと思いまして」
「パールは優しいね」
朝があれだったから余計に……。
「そんな事ありませんよ」
とりあえず、いやいや、いやいや、いやいや、いやいやの繰り返しになりそうだから、話を進めよう。
「まあそれは置いといて、身分差同士の恋愛だっけ?」
「え、あ、はい」
「その前に一つ聞くね。パールは私のこと好き?」
「え、えっ⁉︎」
「知ってたんだ、パールの気持ち。だから、私が女と聞いて、パールの気持ちに変化があったかなって」
パールは拍子抜けた顔をした。
「ご存知でしたか。そうですか。意外と、分かりやすい性格なんですね、私。好きですよ。セレス様が男性であろうと女性であろうと、気持ちは変わりません。私は、男性を好きになったのではなく、セレス・コロール様を好きになったのですから」
ようやく、パールのその言葉を素直に嬉しいと思えた。
「私も好きだよ。うん、好き。だけど、応えられない理由があるんだ」
「やはり、身分差ですか?」
「それは、パールが聖女になれば解決できる話だよ」
「その事までご存知でしたか」
「私が応えられないのは、もっと別の話。聞いてくれる?」
「もちろんです」
私は、馬鹿に話したように全て話した。ゲームの事も全部。
「そう、なんですか」
「やっぱり、良い気分にはならないよね」
「一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「何?」
「セレス様は私のことを、ゲームのキャラクターとして見ているのか、パール・ホワイト個人として見ているのか、どちらですか?」
「もちろん、個人だよ。でも、正直不安なんだ。パールが私を好きになってくれたのは、私が攻略対象との接触を回避させる為に、似た行動を取ったからじゃないのかって」
パールはしばらく黙っていた。その間の時間は、どうしようもなく怖かった。
「そうかもしれません」
──やっぱり。
「では、一つお聞きします。セレス様の行った事は全て、言葉も含め、ゲームで見た事と同じですか?」
「それは流石に……」
「ですよね。セレス様、ご自身では真似をしている。と思っているかもしれませんが、人というのは、真似たからといって、同じ結果が出せるとは限りません。どんなに真似ようが、その人の個性は消えません。ですから、安心してください。私は攻略対象を好きになったのではなく、セレス様を好きになったのです。セレス様も、私が主人公だからではなく、パールだから好きになってくれたのですよね?」
ほんとに、欲しい言葉をくれる。
「もちろん」
「改めて言われると嬉しいものですね。ですがそうなると、なおさらセレス様を殺す犯人が許せません」
「……いいんだよ。自業自得だから」
「そんな! どんな理由があろうと、セレス様が殺されて良い理由にはなりません!」
「良いんだよ。ねえ、パール。もし私が人を殺めた事があるって言ったら、どう思う?」
思った通り、驚きの表情を浮かべている。けど、すぐに真剣な顔になり、真っ直ぐ私を見つめる。
「セレス様が意味なくそのような事をなさるとは思えません。無理に聞こうとも思いません。ですが、教えてくれるのでしたら、静かに聞きます。セレス様が私に教えてくれたと言うことは、吐き出したいということでしょうから」
ほんと、パールは私の事信用しすぎ。
「引かない?」
「はい」
更新空いてすみません。腰やってしまい、同じ体制でいるのが難しくなってしまいました。現在も変わらずなので、更新頻度落ちます。




