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「はぁ?」
そりゃそんな顔するよ。私だって、前世でここはゲームの世界です。て言われても、はぁ? だもん。
そう考えると、少しこの話題は失敗したかも。少々ショックかもしれないし。けどもう、戻れない。
「私、転生者なの。元々日本ってところにいて、訳あって死んで、この世界にセレス・コロールとして生まれ変わった」
「俺たちはその日本ってとこにある、ゲームの中の登場人物ってわけか?」
「うん」
「そうか。それで、どんなゲームなんだ?」
「ゲームって言っても、この世界にあるようなゲームじゃない」
私は一つ一つ、なるべく丁寧に説明した。テレビの説明から始めて、ゲーム機、このゲーム『LOVE PALETTE』の内容を。
「はぁーん。悪い役じゃねーな。しかし俺がパールとか。考えたことねーや」
「考えなくていいよ」
「で、言ってない事があるだろ。お前は何をどうして繰り返している。こういうのは大抵、繰り返す要因と目的があるんだ。要因は姉貴として、まずどうして姉貴が死ぬのか。それを知れば目的も分かる」
あえて言わないでおいたのに、嫌なことを言う。
「ゲームではスカーレットが敵側って言ったでしょ」
「おう」
「スカーレットさ、ゲームだと最終的に誰エンドになっても、それこそ友情とかハーレムエンドになってもさ、断罪されるの。処刑されたり追放されたり。それで私は、何度もスカーレットの死を目の当たりにしてきた。追放された時もあった。それでも、数日経つと繰り返していた」
「んじゃ、姉貴を助ける事が目的か」
「うん。だから何度も何度も繰り返した」
辛かった色んなルートを、断片的に全て教えた。
「じゃあ良かったな」
「え?」
「今回は上手くいきそうなんだろ」
「まあ、うん」
「なら過去の事は忘れて、今を見ろ。俺は何もしないがな!」
「はぁ? 何それ」
「お前が俺に全部教えたのは、今日を繰り返すからだろ。つまり、今回は選ばない。だからその話をする事を決意した。そうだろ」
こいつ、理解しすぎ。
「はぁ、そうだよ」
「そうか。気にすんな、お前が死んだ後のフォローは俺がやる。だから安心して、次の今日で生きろ。ま、俺にとって今日が続くならだがな」
そうか。私が死んだらすべてリセットってわけじゃない可能性があるのか。それじゃあ、私は今まで多くの人を悲しませてきた可能性がある。特にパール。
でもたぶん、こいつはその世界線でも、私の話なんて知らなくても、パールとかスカーレットのフォローをしてくれてるんだろうな。
「その性格を初めて会った時に出してくれてればな〜」
「なんだよ。そこは素直に感謝しろ」
「うん、ありがとう」
馬鹿は私をじっと見ると、フッと笑った。
「女々しい顔しやがって」
「失礼な、私は女だ。声だって──これが本当の声」
「お前変なところ器用だよな」
「……驚かないの?」
「薄々勘付いてたからな」
「……はぁ⁉︎」
「男がしなさそうな言動が多々あったからな。女じゃなくともそっち系かと思ってた。お前は自分が思っているよりなりきるのが下手だ」
くそっ、姉弟そろって同じこと言いやがって。
「話変わるが、お前、まだ俺に相談してないことあるだろ。どうせ無くなる今日だ、話してみろ。お前が今一番解決したいことだ」
はあ、ほんとに。これだから主要キャラ補正は嫌だ。
「パールに告白された」
「だろうな」
「どうせ知ってると思ったよ」
「そりゃな。昨日俺を誘ったのもパールだ。いや、誘うというより連行と言った方があの場合は合ってるな」
「どうして、私なの」
「そんなの簡単だ。お前はパールをよく理解してる。理解してるから、一番心に寄り添えた。自分を理解してくれて、優しくて、手を差し伸べてくれる人間。そんなの、醜悪な容姿じゃなければ好きになるだろ。少なくとも、俺は好きになる」
後半は多くの人に喧嘩売ったぞ、この馬鹿。
「ま、パールの性格じゃ、容姿は関係なさそうだけどな」
「何でそう思うの」
馬鹿は自信満々に笑みを浮かべた。
「そりゃ、同じように優しく、そして友好的に接してやったこの俺よりも、お前を選んだからだ。お前の話なら、俺も選ばれる可能性があった。だけど、俺よりも容姿が劣っているお前を選んだ。それが理由だ」
こいつ、堂々と人のこと貶しやがって。
「あーそ!」
「だから、パールは女とか男とか気にしないと思う。お前の正直な気持ちをちゃんとぶつけてやれ。安心しろ、玉砕してもどうせなくなる今日。ならいっそのこと、前世のことも全部話せばいい。パールは姉貴と違って、それを受け入れられるだけの度量はあるしな」
ほんと、こいついつの間にキャラ変したんだか。いや、まあ、らしいっちゃらしいけど。
「考えてみる。あと一つ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「あんたは良い女か悪い女か分からんでしょ。あんたから見て私はどうなの?」
そう聞くと、馬鹿はキザっぽく笑う。
「俺は、悪い女に付き合うほど暇じゃねぇ」
「そ。らしいね」




