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──何回、嫌な夢を見たのだろうか。このループのトリガーは何? 告白? いや、違う。おそらく……。
私は今日、寝ることをやめた。あの夢がトリガーになっているのだとすれば、寝なければ良い。もう、パールのあんな顔は見たくない。なら、比較的マシだった今回が昨日になれば良い。
針の動く音だけが部屋に響く。
そして、奇妙な音が。ゆっくりと開くドアの音。気づくと部屋の隅に人影が立っていた。そして、ほんのかすかに光る刃物。
──ああ、なるほど、トリガーは私の死か。
なす術なく私の首を刃物が貫いた。
そりゃ、あんな夢見るよ。
誰だか知らないけど、次はこうはいかせない。
◇◆◇◆◇
確認するまでもない。今日だ。犯人は誰だ? 恨みを買うようなことはない……はず。うん、言い切れん。特に貴族相手には心当たりがありすぎる。
「はあ、悩みがどんどん増えていく」
こんなこと、スカーレットに言ったら頭おかしいと思われる。パールは……心配かけそう。お姉ちゃん……。力にはなってくれるはず、だけど、下手したら自分が犠牲になりそう。お兄ちゃんなら。でも、お兄ちゃんは理解するのに時間がかかりそうだからなー。お姉ちゃんみたいに無条件に私の話を信じるわけじゃないし。
……こういう時最終的に行き着くのがあいつとは、なんとも悲しい現実。
「なんだお前。昨日の事なら言った通りだ」
「ちょっと話そうか。二人で」
「んだよ、指示すんな」
「いいから来い」
馬鹿を人気のない場所まで連れ、口を開く。
「たく、こんなとこまで連れてきやがって」
「あんたさあ、僕に対して恨みを持っている奴が誰か分かる?」
「なんで俺に聞くんだよ」
「あんたは馬鹿だけど、馬鹿だから本気で嫌いな奴は遠ざけるって分かりやすい行動を起こすから、少なくとも僕の事が嫌いではないと分かる。だから、あんたに聞いてる」
「……知らねーよ。チビに心当たりがないのに、俺が分かるわけねーだろ」
馬鹿は面倒くさそうにしている。
「あるから聞いてるんだよ。誰が持ってそうかって」
馬鹿は近くにあるイスにどかっと座ると、だらしなく足を開き、顔を上に向ける。
「何があった。少なくとも、それを聞くだけの根拠はあるんだろ。最初に言っとくが、知らねーっていうのが俺の答えだ。ただ、注視してやることはできる」
「……悪い予感だよ」
そう答えると、馬鹿はわざとらしくため息をついた。
「一つ言っておく。お前が俺のことをそれなりに理解しているように、俺も俺なりにお前の事を知っているつもりだ。お前はそんなくだらないことで、わざわざ俺に頼らねえ。自分でなんとかしようとするはずだ。もう一度分かりやすく言う、何があったか教えろ」
私の心がほんの少し揺らぐ。多分、おそらくだが今回も死ぬ。そうなると、今日のこれは無いことになる。
……なら、いっか。
「あんたさ、僕が何度も今日を繰り返してるって言ったら、信じる?」
「信じねぇ」
やっぱり。
「こういう状況じゃなきゃな。それが、お前が俺を頼った根拠か?」
「……前提条件が僕の死なんだ」
馬鹿は黙って顔を逸らし、姿勢を少し正した。
「いてーのか?」
「まあね。痛みだけは慣れない。ただ、今までは寝ていた時だからまだましではあった。前回は……昨日の今日の夜は、起きてたから痛かった」
「そうか」
「…………」
「その力は、というか、似たような力は今回初めてなのか?」
たとえ馬鹿であろうと、人に相談するだけ心の重りが外れていっている気分になっていた。どうせ無くなる今日。いっそのこと、全部話してしまおうと、そう思う。
「いいや」
「…………」
「この学園生活、もう何度経験したか分からない」
「トリガーは?」
「スカーレットの死」
馬鹿が明らかに動揺した。そりゃそうだ、親族が死ぬって聞いたらそうなるよ。
「信じられないかもしれないけどさ、あんた達はさ、スカーレットやパールを含め、ゲーム、分かりやすくいうと物語の世界の人物なんだよ」




