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席に戻ると、スカーレットは不機嫌を隠さない顔を向けてきた。
「ずいぶんと長いお花摘みでしたこと。お手洗いはそこまで遠くないでしょう? それに、平民と親しげに教室に入ってくるなんて」
「あの子が迷ってたから、一緒に来ただけだよ」
「それであなたが遅れたらどうするのよ。それに、あの子とは親しくしないほうが得策だと思うわよ」
「どうして? パールは悪い子じゃないよ。それに、困った人は助けないと。人助けに平民も貴族もないと思うよ」
「あなた、本当に関心がないのね。将来苦労するわよ」
「そうなったらスカーレットが助けてくれるでしょ?」
私がそう言うと、スカーレットからは「仕方ないわね」と小声で言われた。なんやかんや言って、やっぱりスカーレットは優しい。
◇◆◇◆◇
授業も一通り終わり、私は次のイベントの為に移動しようとするのだが
「セレス、少し付き合いなさい」
「え、え〜、今日じゃなきゃダメ?」
「なによ、都合悪いの?」
「まあ、うん」
そう言うと、スカーレットは不満そうな顔をした。
「別の日に付き合うから。今日はほら、アッシュ様とかを誘ったら?」
「結構よ。私は先に帰るわ」
「え、あ、スカーレット! ……行っちゃった」
悪いことしちゃったな。でも、これもスカーレットの為だし。
私はそう納得し、図書館に向かう。
──たしか、娯楽小説の棚のところだったはず。
ここでは赤髪黄色目の俺様系王子、アラゴン・カラーとのイベントが発生する。プライドが高く、オラオラ言ってるアラゴン王子が、実は娯楽小説が好きだという事が主人公に知られてしまい、そこから秘密の共有やら主人公が言いふらさないかで、接近するようになるんだよね。
ま、そうはさせないけど。
「パール、また会ったね」
パールは私を見るなり、スカートを持ってお辞儀をする。
「セレス様もこちらに用が?」
「うん。僕、娯楽小説が好きなんだ。ここにいるって事は、パールも好きなの?」
「はい」
「それなら、パールのおすすめ教えてくれない? 僕が見た事ないものかもしれないし」
見たことあるやつなら話が弾むし。
「わ、私なんかがそのような事をしてしまって良いのでしょうか?」
「良いと思うよ。僕はもっと、パールの事が知りたいから」
普通なら特に問題の無さそうな言葉のような気がするが、パールには少々引っかかるところがあったようだ。
「それは、私の髪が金色だからですか?」
声色からどう考えても良い意味ではないだろう。しかし、どうして髪色が関係するのだろうか? もしかしたらスカーレットが今朝言っていたことと多少は関係あるのだろうか?
つまり、スカーレットに聞いたらいいのかな? いや、でもスカーレットの誘いを断ってパールと会ったってバレたら、良い顔はされなそう。
仕方ない、ここは上手く切り抜けよう。お姉ちゃんなら何か知ってそうだし、後で聞いてみよう。
「僕がパールを知りたいと思うのに、何か理由が必要なの? ただ、パールと仲良くなりたいと思うだけじゃだめ? 髪色とか、僕はそういうのよく分からないから、特に気にしないよ。僕がパールの髪に対して思う事はただ一つ、綺麗だってことだけだよ。ごめんね、僕の言葉で気分を損ねたのなら謝るよ」
パールは自分の髪に少し触れ、そっと微笑んだ。
「いえ、ありがとうございます。こちらこそ、不安な気持ちにさせてしまい申し訳ありません」
なんだかよく分からないが、パールが笑顔になってくれて良かった。
「あ、なんだお前ら? 邪魔なんだけど」
こちとらほんわか良い雰囲気になっていたというのに、運命には逆らえないのかなんなのか、第二王子、アラゴン・カラーは私達を睨んでいる。
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