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覚えのある耐えがたい痛み。血の巡りが早くなっている事が分かる。
嫌な思い出が蘇ってくる。
「────⁉︎ ……夢か」
なんとも目覚めの悪い夢。いや、感覚だけだから夢と言えるのか否か。でも、はっきりした感覚だった。自分の首を思わず確認してしまうほど。
「嫌な夢」
夢の内容を忘れるようにと、無心で剣を振る。振って、振って、時間になったら学園に行く準備をする。
「大丈夫、大丈夫」
そう言い聞かせて部屋を出る。
昨日より早い時間。そのせいか、教室にはパールしかいない。
──大丈夫。逃げるな、私。ここで話をしなければ、それこそパールを傷つける。
私は意を決してパールに声をかける。
「お、おはようパール」
「おはようございます、セレス様」
挨拶を返したパールは、特段変わったところはなかった。正直、少しホッとした。
「あのさ、昨日の事なんだけど」
「あ、はい。その事をお話ししようと思っていたところです。昨日も申したように、本日は少し用がありまして。裏のベンチがあるところで待ってもらってもよろしいでしょうか? そんなにかからないと思いますので」
「え、いや、え? 昨日?」
「私、何かおかしな事を言いましたか?」
「いや、えっと、ううん。それじゃあ、放課後」
「はい」
昨日? そんな事言ってたっけ? いや、言ってないよな? 私の勘違い?
「おはようセレス。どうしたのよ、そんな変な顔をして」
「スカーレットこそ、昨日に続いて今日も幸せそうな顔だね?」
「昨日? 何言ってるのよ。昨日はお互い出かけていたじゃない」
「え?」
「えって、もう忘れたの?」
「え、いや、昨日も学校だったよね?」
「あなた本当に何を言ってるのよ。昨日は休日で、それぞれアッシュ様とシャルト様とで出かけていたじゃない」
え? え? いやいやいや。いやいやいやいやいや!
「ご冗談を」
「本当にどうしたのよ。医務室に行った方がいいわよ」
「いや、その、え?」
本当に分からない。意味が分からない。私だけ、取り残されている気分になる。パニックになりそう。
普段なら絶対にしないが、ここは緊急事態だ。
「ちょっといい」
「……なんだ。ちゃんと出かけただろ」
「それ、いつの話?」
「何の話だ? スカーレットと出かけた話じゃないのか?」
「その話。それ、いつ?」
「昨日に決まってるだろ。悪いが、こんな当たり前の事を聞かれて、俺にはお前が何を考えているのか理解に苦しむ」
「あっそ、別にいい」
どうしよう、確定、ほぼ確定だ。私、ループしてる。昨日スカーレットが殺された? いや、でもそしたら入学前日に飛ばされるはず。他の誰か? 誰? 攻略対象? それともパール? 誰?
何も分からないまま、放課後がやってきた。
やっとセレスのループ設定活かせる段階にきました。




