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「やっと見つけました。セレスさん、少々お待ちください」
寮までの帰路でそう呼び止められた。
「ホリゾン王子様。──何か御用でしょうか?」
「実はですね──」
「セレス! 良かったです。ホリゾン王子様、見つけられたようですね」
「お兄ちゃんまで。わざわざ学園までどうしたの?」
「以前、消えた窃盗犯の事について調べると申したことを覚えていますか?」
窃盗犯? ……あー、あの時の。
「うん」
「その件について、わたしも関わっているのですよ。禁忌魔法も絡んでいる可能性があるとなれば、王子として、動くのは当然ですから」
「そうなんですか。それで、私は証言をすれば良いのですか?」
「そうではないよ。セレス、あの時取られた財布を教会に預けたと言っていたね」
「うん。念のため」
「その財布から、禁忌魔法が検出されました。教会に預けるという判断は正しかったと言えます」
「はあ……」
結局何が言いたいのだろう。貴族って遠回しに伝えてこようとするから苦手なんだよ。
「あの、もう直球に言いたいこと言ってください」
二人は目を合わせると、さっきまで浮かべていた柔和な笑顔が消え、真剣な表情になった。
「セレスはパール・ホワイトさんと仲が良いそうだね。あの時も一緒にいましたし」
「うん」
どうしてパール? それにその表情……。まさか⁉︎
「お兄ちゃん、パールは違う! 違うよ! 禁忌魔法とは無縁だよ!」
「分かっていますよ。なので安心してください。どうやら調べたところ、セレスはホワイトさんの一押しもあって預けたみたいですね」
まあ、そうともいえる。
「それで、どういうこと?」
「パールさんに確認したところ、違和感を感じたとおっしゃっていました。禁忌魔法を感じ取れる方はどんな方だと思いますか?」
「聖魔法を使える方でしょうか」
「はい。それともう一人。禁忌魔法を使える方です。もちろん、後者でないことは既に確認しております。それと、聖女の素質があることも」
おお、ようやっと聖女の素質が。やはりゲームのクライマックスに近づいているんだ。
「あの、それで私はなぜ止められたのですか?」
「セレスは既にあの時点で気づいていたのでは? ですから、ホワイトさんに確認してもらい、教会に預けた。念のため中身ごと。違いますか?」
気づいていたというより知っていた。だけど、絶対お兄ちゃんの事だ。どうして気づいたのか聞いてくるはず。
「自分の事で精一杯の私が、気づくはずないよ。あれはパールが気にしてそうだったから、渡してみただけ。禁忌魔法って聞いた直後に言われたんだよ。少しくらい警戒するよ。もう戻っていい?」
これ以上ここにいるとパールが来てしまう。
顔を見てしまえば罪悪感で押しつぶされそう。
「はい。ですが、これだけは聞いてください。ホワイトさんが言ったのです。セレスは少々危ない状況に陥っている可能性があると。セレスを引き止めたのはこの忠告と確認をしたかったからです。長々とすみません。もう行っていいですよ」
私は二人に会釈をして、背を向ける。
「セレス、僕はそばにいないゆえに頼りないかもしれませんが、何かあったら頼ってください。セレスは僕の大事な妹ですから。あ、今は弟ですね。
そういう事情もあって、セレスは友人や恋愛関係等で困ってしまうことがあるかも知れません。カナリアに頼るのもいいです。ですが、なんでも頼りすぎて負担をかけないようにお願いします。カナリアにも限界があります。本人は言わないし、気づかないでしょうが。
今も何か抱えているのでしょう。どうしても落としてしまいそうな時は言ってください。一緒に持ちます。僕はセレスのお兄ちゃん、ですから」
私はお兄様の言葉を背に受け、この場を去った。




