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パーティーも終わり、片付けの段階へと入った。
パールはスカーレットが連れて帰り、私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの用が終わるまで会場のベランダで暇を潰す事にした。そして何故か、クズ貴族も隣にいる。
「帰らないのですか?」
「俺にだって用はある」
「そうですか」
やはりというべきか、会話も続かず気まずい空気が流れる。あの馬鹿でもこいつよりはマシだったのかと思うよ。
「君は──」
静寂を打ち破るようにクズ貴族が声を出す。
「君は、パールが好きなのか?」
「……は?」
「君はパールが好きなのか?」
いや、そういう意味のは? じゃないよ。
「前言いましたよね、ただの友人だって」
「そうか」
なんなんだこいつ。と言いたいが、変に喉が渇いたのでグラスを取って喉を潤す。
「俺は好きだ」
吹き出した。あまりの唐突な発言に口に入っていたジュースを吹き出した。
「ゆ、友人として?」
「人としてだ」
いつもと同じ表情でそんな事を言い放つクズ貴族。
「スカーレットは? 婚約者でしょ? まさかパールを側室にする気? 正気? スカーレットとパールの気持ち考えてる?」
「俺が意味もなく君にこんな事言わない。君はスカーレットと仲が良いそうだな」
「まあ、はい」
一体何を言いたいんだ?
「俺の代わりに貰ってくれ」
「…………は?」
意味が分からなかった。いや、意味は分かっていた。分かりたくなかった。その理不尽な物言いに、スカーレットの気持ちを踏みにじる言葉に、私は思わず怒りが込み上げてきた。
「スカーレットと仲が良いのなら、特に問題はないだろう。幸い、君には婚約者がいな──」
「黙って聞いてれば自分勝手な事をつらつらと。一つ聞きたいんだけど、あんたにとってスカーレットってどんな存在? どう見えている?」
「……よく分からない。ただじっと、静かに俺の後ろをついて来ていた気がする」
「それ、いつの話?」
「…………覚えていない。幼かった事だけは覚えている」
殴りたかった。一発でいいから、スカーレットの苦しみの何万分の一でも味合わせてやりたかった。
「あんた、今のスカーレットの姿思い浮かべられる? スカーレットの声を思い出せる? 一度でもいいから、自分からスカーレットに話しかけた事はある⁉︎ スカーレットの気持ちを聞いた事はある⁉︎」
周りに人がいなくて良かったと思う。感情的になるのは、貴族としては失格だから。
「いや、ない……」
それがどうしたんだと言わんばかりの顔に、私は耐えられなかった。手を出したかった。だけど、そうすればスカーレットの顔に泥を塗る事になる。私はただ、耐えるしかなかった。
「一度でいいからスカーレットと二人で出かけて、話を聞いて、ちゃんと見てほしい。ていうかしろ。
あんたのは興味がないで済ませられない。人として最低の域だ。ちゃんと人間でいたいなら、次会ったときに誘え。
スカーレットの行きたいところ聞いて、本人が答えなければ僕に聞け。言っとくけど、お金は全部あんた持ちだから。プレゼントもちゃんとする。
もしあんたが何もせず、スカーレットを空気のように扱うなら、パールに全部言う。誇張を混ぜて全部言ってお前を嫌うように仕向けるから。それじゃ、僕は帰るから」
私の今の顔は怒りが滲み出ていただろう。心配するお兄ちゃんとお姉ちゃんを安心させて、私は寮へと帰った。




