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スカーレットの言葉が気になってパールを探すと、会場の隅で立っているのを見つけた。
「パー」
「セレス様、久方ぶりです」
視線を下にずらすと、以前私にお見合いを申し込んできた御令嬢がいた。
えーっと、たしか、えーっと
「改めてご挨拶させていただきます。シャルト・ルーズと申します」
あーそうだ! シャルトだ!
「お久しぶりです、シャルト様。ドレス、とてもお似合いです」
「ありがとうございます。以前は無礼を働き大変申し訳ありません」
「気にしていませんよ。今後気をつけていただければ問題ありません」
「寛大なるお心に感謝申し上げます」
「いえいえ」
これ、いつまで続くんだろう? これだから挨拶って好きじゃないんだよね。固い形式っていうのは前世がある私にとっては慣れない事だから。それに、パールも心配だし。適当に流して早く終わらせよう。
「セレス様、お詫びと言ってはなんですが、今度一緒に出掛けてもらえませんか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。では、失礼します」
離れていくシャルト様を見て、私は少々まずい事になっているのではと思い始めている。
……あれ? 私、出かける約束取り付けた? 追いかけて訂正するべき? いや、それは流石に可哀想。
こんな感じで自問自答しても答えなんて出ないので、私はパールの元へ行く。
「また君か」
「何か文句でもあるのですか?」
「お二人とも、おやめください」
「そうだ。俺たちに突っかかるのはやめろ」
「は? 僕はパールにしか用はないよ。アッシュ様こそ婚約者であるスカーレットの側にいないのですか?」
「婚約者というだけで彼女とは他人だ。側にいる必要はない」
殴りたい。他人であろうと婚約者だ。ならどうしてもっと仲を深めようとしないのか。あんたがそんなんだからスカーレットはいつも見ていることしか出来ないんだ。
「婚約者は他人なのですか? 将来はお二人で暮らすのですよね。お互いをよく知り、仲を深めようとはしないのですか?」
パールがそう言うと、歯切れ悪くしていた。
「今彼女は王女という立場で挨拶回りをしている。そこに俺がいるのは不自然だ。たしかに、パールの言葉にも一理ある。少し考えを改めるとしよう」
本当に改めるだけして行動には移さなそうだなぁ。
「そういえばパール、ホリゾン王子様と親しげに話していたみたいだけど、接点ってあったの?」
「はい。ホリゾン王子様には前々から気にかけていただいてましたから。今回も、このパーティーに平民は私だけですので、色々と気を配っていただきました」
ほー。それじゃあ、あのスカーレットの言葉は半分ホリゾン王子の差金でもあるんだろうな。
「それでどう? 肩身狭かったりしない?」
私の問いに、パールはふんわりと笑った。
「はい、お二人が話しかけてくださるので」
「なら良かった。パールが一人でいたから少し心配だったが、これからの時間は共にいよう。君は挨拶回りでもしたまえ。見たところ、兄姉に任せてしていないようだからな」
こいつ、おいしいとこ奪いやがって! あとこんな時だけ見ているのもムカつく。
「僕は問題ありません。跡取りでもありませんから。しかし、アッシュ様は違うのでは?」
「俺は君と違って一通り済ませた。君にお節介される筋合いはない」
「そうですか、これは失敬。ところでパール、お腹空いてない?」
「君は散々食べていたというのに、まだ食べ足りないのか」
お前には何も言ってないこのクズ貴族。
「僕はパールに聞いているのです。口を挟まないでください」
「俺は君の体を心配してあげただけだ。君みたいに一日中食事をしていれば、すぐに服も入らなくなるだろう。それとも、君の制服が大きいのはそれを見越しての事なのか?」
こ、い、つ、前々から腹立つ言動ばかりされてきたが、乙女に向かって太るぞと言うなんて! 大体、私は太ってないでしょうが! 割とスレンダーな方でしょう!
「アッシュ様、流石に言い過ぎです。セレス様だってご自身の体の事くらい把握していますよ。それにセレス様は毎日鍛錬をしていらっしゃるようなので、今日くらい食べ過ぎても問題ありませんよ」
あ〜、もうさすが主人公。さすしゅじ!
「ありがとうパール。ところで、よく僕が毎日鍛錬している事知ってるね」
「朝はいつも開館と同時に図書館に行くので。気分を害されたでしょうか?」
「ううん。見ててくれてありがとう」
「いえ」




