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あれから一月、慣れないタキシードを着こなし、王城へと赴いた。
「セレス、ホリゾン王子様に挨拶はするようにね」
「分かってるよ。そんな心配しないで」
と、言ったものの、監視されている時点で信用は無いのだろう。
「セレス、安心しなさい。僕らの後に続ければ良いですから」
「うん」
私達はホリゾン王子の前へと立つ。
「ホリゾン・カラー王子様、この度はお誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。セレスさん、タキシードの着心地はどうですか?」
流石にホリゾン王子には話を通しているか。
「快適ですよ。むしろずっとこの服装でいいくらいです」
「それは何よりです。今後も、妹と弟と仲良くしてください」
「は、はい」
あの馬鹿王子は遠慮させていただくけど。
「それじゃあお姉ちゃん、お兄ちゃん、私はこれで」
「服汚さないようにね」
「挨拶されたらしっかりと対応してください」
「うん!」
私は心躍る気持ちでテーブルへと向かう。
「よおチビ。お前体は小さいくせによくそんなにばくばく食えるな。太るぞ」
他に人がいる以上、性格の悪さを露呈しない為か小さな声で話しかけてくる。なので、気づかないことにする。
「おい、無視するな。聞こえてるのは分かってるんだ」
と、頭を小突かれたので、流石に無視できなくなった。
「何する……の」
私の視界には、馬鹿王子を通り越して、ホリゾン王子と親しげに話すパールが目に入った。
「おい馬鹿。パールとホリゾン王子様って接点でもあるの?」
「あ? いや、ないだろ。お前の姉さんの方がそういうのは詳しいんじゃないか? なんだお前、ヤキモチか〜?」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら的外れな事を言い出す。
「んなわけない。ただ意外な組み合わせだったから聞いただけ」
「認めた方が楽になるぞ」
「認めるものなんてない。それよりどうしてここにいるの? あんたは挨拶回りしないとでしょ」
「姉貴に任せてるから問題ねーよ。そもそも俺面倒ごとは嫌いだし──」
馬鹿王子の肩に突如として現れた細い手。その手は徐々に肩に食い込んでいき、馬鹿はそれに伴って顔が引き攣っていく。まるでホラーシーンのようだ。
「一体こんなところで何をしているのよ。お兄様の監視から免れることができても、あなたにサボらせたりはしないわよ」
「あ、姉貴……。それを言うならこいつだって料理食ってばかりじゃねえか」
「あなたはセレスじゃないでしょう。一応でも王子なのだから、しっかりしなさい。ほら、私と一緒に行くわよ。それとセレス、彼女のこと、しっかり見てあげなさい。この会場で唯一の平民なのだから」
「あ、姉貴、勘弁してくれ! おいチビ、姉貴を説得しろ!」
藁にもすがる思いを込めたその言葉に、私は精一杯の笑顔で
「行ってらっしゃい」
と送ってやった。良い気味だ。




