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熱もすっかり下がり、完全復活を果たした。
「治ったからってすぐに出かけたら駄目じゃない」
「でも家からお金届いたし、ずっとベッドの上でつまんなかったんだもん。だから、タキシード買いに行くの手伝って」
「私は今日用事があるから無理よ。私だって、王女としての仕事くらいあるわ」
へー、私そんな公務なんてやった事ないや。と思っていたのが顔に出ていたのか、スカーレットはキッと眼光を鋭くした。おー怖い。
「とにかく、今日行きたいのなら他を当たりなさい。カナリア様にお願いしないの?」
「お兄ちゃんが根回ししてたから断られた」
「さすがシナバー様ね。とにかく、私はそろそろ出かけないと行けないから戻りなさい」
「あーい」
私がそう言うと、スカーレットは私の頬を引っ張った。
「ちゃんと返事しなさい」
「は、はひ」
スカーレットの手から解放されたけど、そこそこ強く引っ張られたのでまだ痛い。
「セレス様? 大丈夫ですか?」
「あれ、パール。どうしてここに?」
「図書館の帰りです」
「え、まだ昼前だよ」
そして私が起きてから一時間も経ってない。
「午後は部屋で勉強するので。それよりも、頬を押さえてますが大丈夫ですか?」
はあ、どーして同じ女性だというのにこうも性格が違うのだろうか。
「うん、大丈夫だよ。どこぞの誰かさんの琴線に触れちゃっただけ」
「セレス様は自由ですからね」
これ貶されてるの? それとも擁護されてるの?
「そんな事ないよ。あ、そーだパール、この後暇?」
「はい、特に用事はありませんが」
「それじゃあ、ちょっと付き合ってくれない?」
「大丈夫ですよ。ですが、体の方は大丈夫ですか? 油断大敵ですよ」
「大丈夫大丈夫」
「なら良いですが」
訝しげな顔をされたが、言質はしっかり取ったので問題なし!
◇◆◇◆◇
私はパールを連れて、前とは違う大きな町に行く。
「わあ、凄いですね。こんなに大きな町は初めてです」
パールは目を輝かせて辺りを見回している。
「王都だからね。この町の職人は腕がいいんだよ」
「職人?」
私は行きつけの服飾店に入る。
「いらっしゃいませ」
「お久しぶりです。今度のパーティーに必要なタキシードを見立ててもらえますか?」
店主は私を静かにじっと見る。流石にここまでは話を通してないか。
私はパールに悟られないように説明し、いくつかタキシードを見せてもらう。
「お好みのタキシードはございますか?」
「お兄ちゃんはいつもどのような物を身につけていますか?」
「少々お待ちください」
店主が裏へと回ると、パールは一気に近づいてきた。
「あの、セレス様、一体何をお考えですか?」
「ん? パールに見てもらおうと思っただけだよ」
「わ、私がセレス様の⁉︎ む、無理です、その、私礼服には詳しくないので」
パールが慌てる素振りが面白く、悪いけど少し笑ってしまった。
「安心して、僕だって詳しくないから。ただ見た感じこれが気に入ったって言ってくれればいい。組み合わせは店主に任せるから変になることも無いし。もし見てくれないなら、パールのドレスも買うよ」
我ながら変な脅しだと思う。
「わ、分かりました。責任は取りませんよ」
「うん。パールが見てくれるだけで僕は嬉しいよ」
「──またセレス様はそう言って……」
「ん? 何か言った?」
「いえ、気のせいですよ」
「そう?」
ま、いっか。
タキシードも決まり、私達は町を見て周り寮へと帰った。
いけるぞセレス! あと一歩だ!




