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 あの後、念のため財布を教会に預けて、お姉ちゃんにお小遣いをせびりに行った。

渋々ながらも半分くれたお姉ちゃんには頭が上がらない。


タキシードに関しては家からまたお金が送られてくるので、お小遣いは嬉々として娯楽小説に使わせていただいた。そして読書の量が増え、このところ夜更かしをしていた。


 そんな生活が祟ったのか、体調を崩してしまった。


「全くもう、具合が悪いのに授業に出るなんて」

「平気だと思ったんだよ〜」

「平気じゃないからこうなっているのでしょう」

「そんな責めないでよ〜。頭痛いよ〜」

「これで頭でも冷やしてなさい」


そう言ってスカーレットは私の額にタオルを置いた。


「まだ痛いよ〜」

「だからあれほどやめなさいと言ったのに。自業自得よ」

「うー、酷い」


私病人なのに。たしかに不健康な生活をしてた私が悪いけど。


「酷くないわ。医者の手配はしておくわ。あとカナリア様にも知らせないと」

「医者はいいから側にいて〜」


この世界の薬は前世と比べ物にならないくらい苦いから嫌いなんだよね。


「薬を飲みたくないだけでしょう」

「ち、違うよ」

「はあ、何年一緒にいると思っているのよ。セレスの考えくらい分かるわ。医者を呼ばれたくないのなら、今日中に症状を軽くしなさい」


素直に早く元気になってね。くらい言えばいいのに。


「はーい。あとパールの事なんだけど」

「分かってるわよ。バレる可能性があるから入れないように言っておくわ。それじゃあ私は帰るわ。あとはカナリア様に任せるから」

「うん。ありがとうスカーレット」


 スカーレットが部屋を出てしばらくすると、お姉ちゃんが色々持ってやってきた。


「具合どうセレス。無理そう?」

「うん。無……理い⁉︎」


よくよく見ると、お姉ちゃんの後ろから心配そうにパールが顔を覗かせていた。


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! パールは私が女だって知らないんだけど!」


私はお姉ちゃんを近づけて小さく騒ぐ。しかしお姉ちゃんはそんな私を見てケラケラと笑い出した。


「大丈夫大丈夫。お姉ちゃんに任せなさい。それに、心配している子を無視できないでしょ」


お姉ちゃんはそう言うと、パールを近くに呼び寄せた。


「あの、セレス様、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」


あ、やばい、声上手く作れない。


「セレス、さっきと言ってる事逆だよ。ほんとにもう、こんなことになるならお小遣いあげなければ良かった」

「う〜お姉ちゃんまで〜」


ちらっとパールを見ると、流石に擁護できませんと言いたげに微笑んだ。


「そうでした、先程アラゴン王子様からセレス様にと見舞品を預かったので、今渡しますね」


あの馬鹿王子が選んだものなんて碌でも無いんだろうな。と思いつつ、中身を取り出すと、案の定私がこうなる原因となった娯楽小説が現れた。ご丁寧に煽り文まで添えて。


「パール、あの馬鹿王子に伝えといて。覚悟しろって」

「こら、またそう言って。ごめんねパールちゃん。この子普段は穏やかなの」

「分かっていますよ。普段は女性といる事が多いので、男性であるアラゴン王子様に対してはいつもより自然体でいられるのではないでしょうか?」


遠回しに私と馬鹿王子が仲良いって言ってるよね? いやいやいやいや、お姉ちゃん言ってやって、私は仲良い人には丁寧に接するって。


「そっか。これも仲良いからこそってやつだね」


お姉ちゃん!


「おねえ──ケホッ」


うう、大きめの声を出そうとしたから咳止まらない。


「もう、安静にしてないと悪化するよ。明日もこうだったらお医者さん呼ぶからね」

「ふぇ〜ん」

「今日は呼ばないのですか?」

「セレスは薬が大の苦手だから。病気の時に医者を呼ばれるのを嫌うんだよ」

「そうなんですか。なんだか可愛らしいですね」


子どもっぽくて可愛いって事ね。私そんなに子どもじゃないもん。


「そう! 可愛いの! セレスは小ちゃい頃からませててしっかりしているんだけど、子供っぽいところは今でも──」

「お姉ちゃん、そこまでにして。もう寝るから帰っていいよ」

「……分かった。明日の朝また来るね」

「セレス様、早く元気になってください」

「うん」


二人が部屋を出て行った事を確認し、私は一旦ベッドから出てシャワーを浴びる事にする。


「うう、お姉ちゃんめ。パールを呼んだからわざわざシャワーを浴びなきゃいけないじゃんか」


おぼつかない足取りでシャワー室に向かう途中、テーブルの上に見慣れぬものを見つけた。


どうやらパールが持ってきてくれたものらしく、日本でいうお粥のような食べ物だ。


「嫁力高っ」


私はシャワーを浴びて、それを食した後、再び床についた。

あれまた食べれるなら、明日も病気のままでいい気がする。そう思うほど美味しかった。

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