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 放課後、なんとも言い難い空気を惑わせながら、四人でカフェへと向かう。


「混んでいるわね」

「そうですね。おそらく入れるのは早くて一時間でしょう」

「そんなに待つ必要は無い」


そう言って、盲目貴族は一人でカフェの中に入ろうとする。

こういうのに慣れていない金持ちが何をしでかすのか、容易に想像つくので急いで止める。


「アッシュ様、もしかして席を空けろなんて言うつもりは無いですよね?」

「そんな事言うわけが無い。ただ席を用意するように言うだけだ」


ほとんど同じだろ!


「一時間くらい立って待ってください。あ、早くて一時間でしたね。では二時間から三時間とみたほうが良いですね」 

「時間は有限だ。君みたいに暇人ではない。そもそも、国に貢献している貴族である俺が、平民よりも優遇されるのは当然の権利だ」

「国に貢献しているのはお父様やお母様です。まだ子どもである僕達はお荷物でしかありません。むしろ、平民の方が貢献していますよ」


アッシュ様は顔を顰めた。


「なぜ平民の方が貢献していると言える」


やっぱこいつ周り見えてないわ。


「カフェは平民が気軽に来れるような場所ではありません。ですが、この列には何人かの平民が並んでいます」


盲目貴族が列の方を見ると、こちらの様子を伺っていた平民の生徒達は顔を逸らした。


「彼らはギルドで働いて稼いだお金でカフェに通っているのです。僕達のように、親のお金で通えるわけではありません。平民だからと下に見ず、その努力を讃え、感謝するべきです。分かったら大人しく並びますよ」

「それとこれとは──」

「おや、もしやアッシュ様は立って待つ事ができないと? それは失敬、では順番が回り次第お呼びするので、そこら辺に座っていて良いですよ」

「馬鹿にするな」


そう言うと、元の場所に戻っていった。

はあ、あいつ、馬鹿よりも扱い面倒いかも。


 三十分ほど並んで待っていると、こういうのに慣れていないであろう二人が目に見えて不機嫌になってきている。


「スカーレット、疲れた?」

「これくらい平気よ」

「そう? なら良いけど」


 それからまた三十分。半分は進んだが、これは少なくともあと一時間はかかるであろう長さだ。


「もう、まだ進まないの?」

「食事関連は時間がかかるからね。疲れてきた?」

「いえ……」


あ、疲れてくると無口になるやつね。


「パールは疲れてない?」

「はい、こういうのはよくありますから。一日中歩き回る事も多いですし」

「へー。農作業とか?」

「いえ、買い物です。我が家は市場から離れているのと、買う物が多い日は往復しないといけないので、朝出かけても終わるのが夜というのはよくあります」

「それは大変だね。でもすごいな、僕ならもう途中で嫌になって投げ出しそうだよ」

「私もたまに買い物籠を置いてどこかに行ってしまいたいと思いますよ」


へー意外。主人公だからそういうのは無いと思っていた。


「パールの中にもちゃんと悪魔がいるんだね。安心したよ」

「悪魔?」

「誘惑とかだよ」

「そういうのは人並みにありますよ。私も人間ですから、喜怒哀楽はしっかり持ってます」


やっぱこういうのを聞くと、パールはゲームのキャラじゃないんだなって思う。


「君、女性の頭を勝手に触るのはどうかと思う」


なんだ盲目貴族のくせに、こういうのは目ざとく気づくのか。どうせならもっとからかってやろう。


「セ、セレス様⁉︎」


私はパールの腰を寄せ、頭を包むように手を回す。


「別に、僕には婚約者とかそういうのはいないから構わないと思いませんか?」


この盲目貴族は無表情か顰めっ面しか持ってないのか?


「セレス、アッシュ様をからかうのはほどほどにしなさい」


ふむ、ほどほどという事はこれは許されるという事か。


「ねえパ──」


ほんの一瞬だったと思う。ちゃんとポケットの中に入れてあったはずの財布が抜き取られた感覚がした。


「財布、取られた」

「は?」

「え?」

「……」

「どうしよう、財布取られた⁉︎」

「ちょっとどうするのよ!」

「と、とりあえず魔法で──」

「取られた財布というのはこちらですか? たまたま目撃したので、犯人は捕らえておきました」


私の視線の先に差し出されたのは、紛れもない私の財布。


「そうです! ありがとうございます……」


顔を上げて思わず目を輝かせた。橙色の髪に青い瞳。紛れもない、私の大好きな


「お兄ちゃん!」


だった。

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