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日が暮れた頃、ようやくパールが目を覚ました。
「あ、おはようパール」
「おはようございます……⁉︎」
パールは勢いよく起き上がると、私に頭を下げた。
「すみません、私、いつ間にか寝てしまって」
「別に良いよ。普段寝れてないんでしょ」
「え、いえ、そんなことは……」
「よく言うわね。いつも部屋を片付けて夜遅くまで起きているのでしょう。それくらい素直に話しなさい」
「スカーレット王女様まで。あの時は、その、探し物を」
「物を探すだけで服を切り刻んだり、机をひっくり返したり、カーテンを切り裂いたりする必要があるのかしら? あなたもしかして、私達が頼りないとでも思っているんじゃないわよね。それとも遠慮? 平民風情が貴族がやることを心配するものじゃないわ。平民は大人しく貴族に従って、守られてれば良いのよ」
ほんと、どうして今までのスカーレットはこうなってくれなかったのかとつくづく思うよ。
「スカーレットはまた圧かけて……。
パール、僕達を巻き込みたくないって思うのは当然だと思う。でも、知ってしまった以上助けたいと思う。貴族だからって平民をいじめていい理由にはならないし、平民だからっていじめを受け入れて良い理由にもならない」
「セレス様、スカーレット王女様……」
パールは静かに涙を流す。
「よしよし、今までよく耐えたね。あとは僕達に任せて。スカーレット、ホリゾン王子様に相談できる? 私はお姉ちゃんにお願いする」
「もちろんよ。いくら王女でも下手に動いたら信用に関わるもの」
「うん。パール、もう少しだけ耐えてね」
「あの、本当にすみませ──」
「言う言葉が違うでしょう。こういう時はなんて言えば良いかぐらい、子どもでも分かるわよ」
「……そうでした。ありがとうございます、セレス様、スカーレット王女様」
「うん。それじゃあ今日は戻ろうか。どうする部屋? 自分の部屋に戻る?」
「私の部屋に泊めるからいいわよ」
スカーレットと一緒か……。今なら大丈夫だと思うけど、アッシュ様関連で暴走とかしないか心配。
「セレスが何を考えているのか、なんとなく分かるわ。私がそんなに愚かに見える?」
実際そうだったから否定できない。
◇◆◇◆◇
「パール、来てたのか」
そう近づいてきたのは、噂のアッシュ様だった。
パールって、私達もいるのに気づいてない。私はともかく、スカーレットは悔しいだろうな。
パールもスカーレットを気にして戸惑っているし。
「今日休んでどうしたんだ?」
「あ、いえ、その」
「体調を崩した僕に付き合ってくれたんですよ。アッシュ・グレイ様」
私が前に出ると、少し顔が厳しくなった気がする。
「誰だ君は」
「コロール侯爵家次男、セレス・コロールです」
「コロール家か。君の兄と姉は優秀だとよく聞く。それでパール、カフェの件だが、明日は平気か?」
こいつ、本当に周りが見えてない。ゲームなら主人公視点だから全然良いけど、現実だと気分が悪い。
「あの、実はセレス様にも誘われていまして」
アッシュ・グレイは私を見る。明らかに不機嫌な顔をして。
「失礼だが、君はパールのなんなんだ?」
「友人です。それより、アッシュ様は婚約者がいるのに、他の女性とお茶なんて良いのですか?」
「君には関係ない事だ」
「関係あります。あなた、私の横が見えていないのですか? いえ、厳密に言えばパールしか見えていませんよね」
私がそう言ってようやく、この盲目貴族はスカーレットに気がついた。
「こんなところで何をしているんだ」
それはこっちのセリフだ!
「アッシュ様こそ、授業が終わってしばらく経ちますが、どうしてこちらに?」
「図書館帰りだ」
「そうですか」
パールの時と違って感情の無い瞳に冷たい声。
危害を加えてないにしても、スカーレットが可哀想だ。
「あの、アッシュ様」
「どうした?」
「その、四人で行くのはどうでしょうか?」
「パールはその方が良いのか?」
「その、はい。アッシュ様と二人は流石に緊張してしまいますから」
「そうか、では明日。楽しみにしている」
盲目貴族が去り、張り詰めた空気が緩くなった感じがする。




