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 どれほど時間が経ったのだろうか? 私とパールは気づくと眠っており、学園に響く鐘の音で目が覚めた。


「パー……」


パールを起こそうと声をかけようとしたが、安心したように眠っているパールの寝顔を見ると、そんな気も起きなかった。


私はパールを起こさないように頭を肩から膝に移し、上着を脱いでパールに掛けた。


「私は、パールの事何も知らない。知っているのは、ゲームの主人公であってパールじゃない。ごめんね、分かった気になってて」


ここは、ゲームの世界じゃない。現実なんだ。だから、ストーリーを変えてもその先には複雑な展開が待っている。

パールが楽になろうとしたのはいつかは分からない。ただもし、この学園でそう考えるほどのいじめを受けていたのであれば、それは私のせいだ。スカーレットの破滅のみ考えて、その事だけを頭に動いていた私の責任だ。


私はただ、誰一人欠ける事ない平穏な学園生活を送りたいだけだ。その為にも、私が頑張らないと。


「なんだか、矛盾してる気がする」


 そう考えながら空を見上げていると、服が強く掴まれる感覚がした。見ると、パールが子どものように私の服を強く掴んでる。


「やめて……」


パールは小さく、苦しそうにそう呟いた。それからずっと、顔は苦しそうにしている。


私はパールの頭を撫でて


「大丈夫だよ。もう大丈夫。だから安心して」


そう声をかけ続けた。


「やっと見つけたわ。あなた達何やって──」


 通る声を出すスカーレットに、静かにするようハンドサインを送った。


「今やっと、パールの顔が柔らかくなったとこ。だから、静かにして」

「授業をサボって何言ってるのよ。私がどれほど説明するのに苦労したことか」

「ありがとうスカーレット。少し、色々あってね。ちょっと気分悪くしちゃって。一人になるのも怖くて、だからパールがサボったのは私のせいだよ」

「付き合う方も付き合う方よ。それで、どうして急に気分が悪くなったの?」


スカーレットは話しなさいと無言の圧をかけてくる。


「……夢で大切な人を亡くす所を見たんだ。何度も何度も鮮明に。それがどうしようもなく怖くて」

「そう。それでも、今度からは私に一言入れなさい。あなた達が来るのか分からなかったから苦労したわ」

「うん。でも、無断欠席にならなくてよかった。スカーレット、今度埋め合わせはする」

「当たり前よ。そうね、王都に新しくカフェが出来たみたいなの。そこを奢ってくれたらいいわよ」


言ってくれるよ。前世と違ってカフェは高いのに。まあ、奢る人が増えただけって考えればいっか。


「分かった」

「ならいいわ。それで、彼女の方は?」

「彼女?」

「パールの事よ。言わなくても分かるでしょう」


驚いた。あのスカーレットがパールの名を口にするなんて。


「何ニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわね」

「嬉しいなって思って。パールの事は自分で聞いて。私が勝手に話していいものではないから。ただ一つ言うと、スカーレットが思ってるほど甘い人生は送ってないみたいだよ」

「いじめられているのでしょう。それくらい分かってるわ。彼女の部屋、荒らされていたもの」

「どうして部屋の事……あっ」


そういえば三人で泊まった時、私はパールの部屋を見てないけど、スカーレットは見ていたんだ。


「鍵が壊されていた時点で察するわ。彼女があんなに部屋を見せたがらなかった理由も」

「どうして教えてくれなかったの?」

「人が隠したがっている事をベラベラ喋るほど無神経でもないし、代わりに助けを求めるほど甘くないもの。それに」

「それに?」

「セレスが彼女と仲良くなければ、私もきっといじめていたわ。なんとなく分かるのよ。今は、その時の私に説教をしてあげたいものだけれど」


スカーレットは私に笑顔向ける。


「セレス、あなたは何もしていないでしょうけど、私がしでかすはずの過ちを止めたのよ。だからあなたなら、彼女をいじめから救うことができるはず。もし私の協力が必要なら遠慮なく言いなさい。ケーキで手を打つわ」


その頼もしい笑顔に、思わず笑みが溢れてしまう。


「何度も頼むから、スカーレット太っちゃうよ」

「なら、娯楽小説の貸し出しでいいわ。好きなのでしょう?」

「スカーレット読むの? あのスカーレットが⁉︎」

「失礼ね。話のタネは多いほどいいでしょう」

「パールの為?」

「好きに解釈しなさい」


ほんと、この王女様は素直じゃない。

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