表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/55

20

 私とパールは人通りの全くない裏庭のベンチへと来ていた。


「ごめん、授業サボらせちゃって」

「構いませんよ。セレス様の方が心配ですから」

「……よくこういうところ知ってたね」


私がそう聞くと、パールは言いにくそうにしていた。


「逃げ場が、必要ですから」


パールと仲が良いとはいえ、常に一緒にいられるわけじゃない。

貴族が大半通う学園に少数の平民。同じ立場の人達が集まってもいじめは起こるのだ。なら、立場が低く、金髪のパールは格好の標的となる。

スカーレットがアクションを起こさなくても、いじめは起こる。その事実は無くせない。


「ごめん、守れなくて。気づけなくてごめん」

「セレス様が謝ることはありません。元々覚悟していたことですから。セレス様が私と親しくしてくださっているだけで私は嬉しいです」


どうして彼女をいじめるのだろうと、笑顔を向けるパールを見て思う。

ただ平民ってだけで、金髪ってだけで、どうして苦しまなくちゃいけないのだろう。

どうして私は、側にいるのに気づけなかったのだろう。

私はまた、失ってしまうのだろうか。


「セレス様、そのような顔をしないでください。私は大丈夫ですから」


また、大丈夫。私はその言葉を鵜呑みにして、大事な親友を失ってしまった。スカーレットを守れなかった。

今度はパールを失うかもしれない。今までと違って、パールは攻略対象とそこまで仲が良いわけではない。スカーレットの破滅を防ぐために、私はパールをいじめから守る機会を潰してしまっている。


「パール、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」

「なら、何されてるか言えるよね」


パールは何も言えず、口をただ動かす事しかしない。


「もしパールが何も言わないなら、僕が自力で調べるよ。パールの持ち物、部屋、服の下まで全部。汚されてないか、盗まれてないか、壊されてないか、殴られてないか、傷つけられてないか。全部、確認する。パールに止められようと強行する。それでもいい?」


私はパールの上着に手をかけてそう言う。軽蔑されても殴られても構わない。もう二度と、後悔はしたくないから。


「分かりました、言います」


パールは鞄と服に手を入れ、二冊の本を取り出す。


「こちらが教科書で、もう一つがノートです。見て良いですよ」


教科書を開くと、すべてのページに悪口が書かれ、自分宛でないにしても、心が抉られる酷い代物だった。


次にノートを手に取る。ノートには悪口が書かれていない。教科書に書いてある事が、ノートにも書いてある。


「教科書が被害に遭う事は入学以前から分かっていた事ですので、受け取ってからはこのノートに全て書き写したのです。授業のメモはノートの紙切れを数枚持っていき、部屋でしっかりとしたノートに書き写しています。

教科書とノートは体裁上持っていかないといけないので、ノートは必ず一冊持っているのです。ノートは常に自分で持っています。腰回りに少し余裕があるので、そこに挟んで上着で隠せば、意外と気づきませんよね」


パールは笑っているが、その笑顔は辛そうだった。無理した笑顔だ。


「他には? 絶対これだけじゃないよね」

「あとは本当に、陰口を言われたり、足を引っ掛けられたり、階段から突き落とされるくらいです」

「どうしてそれを()()()で済ませるの? やめてよ、自分に無理させないで。辛かったら辛いって、助けて欲しかったら助けてって言ってよ。頼ってよ」

「本当に大丈夫です。慣れてますから」


そんな暗い表情をするパールを、私は守るように抱きしめた。


「慣れちゃダメだよ。そういうのは、慣れちゃダメ。限界が分からなくなるから。パール、これだけは正直に答えて。本当に、正直に答えて。一度でも楽になりたいって思ったことある?」


その質問に、しばらくの沈黙が訪れた。


「……あります。ですが、私にはその勇気がありません」

「そっか。パール、辛い時は僕を頼って。僕は、パールを離さないから。離したくない。失いたくない」


下に垂れていたパールの腕は、私の上着を掴んだ。


「辛いです。怖かったです。どうして私がと何度も思いました。ですから、セレス様に声をかけていただいた時、優しくされた時、私は何度も救われました。生まれた時から疎まれていた私に、笑顔を向けてくださったのがとても嬉しかったです。ですから、セレス様には知られたくなかった。私の事情を知らずに、ただ笑顔を向けて欲しかったです」


泣き始めたパールに、私はただ肩を貸し、頭を撫でる事しか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ