2
日が暮れ始めた頃にお姉ちゃんは帰ってきた。何かを持って。
「職権濫用して認めさせてきたよ。あと、お兄様からこれもらってきた」
そう言って見せてきたのは、男子用の制服だった。
「え、お兄ちゃんに会ってきたの?」
「うん。するなら本格的にしないとね。ただ、寮の部屋だけは変更出来なかったから、スカーレット王女様にだけは教えておいたほうがいいよ。まあ、もしセレスが女だってバレた時、男子寮の部屋なのは怖いから、これで良かったかも。もし聞かれたら、男子寮の部屋数が足りず、女子寮に血縁関係がいる為、特例で女子寮に部屋があるって説明すればいいよ。その為の許可証も作らせたし」
さすがお姉ちゃん! 用意周到!
「さすがはお姉様!頼りになる!」
お姉ちゃんは顔をニヤつかせ、満足そうにしている。
そもそも、私がお姉ちゃんと呼ぶのは、幼い頃に間違ってお姉ちゃんと呼び、すぐにお姉様と言い直した時、お姉ちゃんの方が親しみが持てるのと、お姉ちゃんからのたまにお姉様と呼ばれると、ギャップで萌えるかららしい。
「でしょ〜。とりあえず、始めちゃう? 明日から学園が始まるし」
「お願いします」
「任せて」
お姉ちゃんによる男子化は上手くいった。
お兄ちゃんを可愛くしたような感じで、男か女か聞かなきゃ性別が分からないレベルにまでやってくれた。
さすが、男装、女装させるのが大好きな姉だ。よくメイドや執事を餌食にしていただけはある。
ちなみにお姉ちゃんの聞いてもないワンポイントアドバイスという名の性癖まで教えられた。
「普段は可愛くて、常に微笑んでいるけど、一瞬だけカッコいい顔つきになる。けど、目が合ったらいつもの柔らかく笑っている顔になったら一瞬で心奪われるからね! 頑張って!」
と、まあいわゆる理想の男子的なのを語られた。
でも、変にキャラ付けしてないとボロが出そうだった私にとっては好都合な設定だった。前半部分だけ採用することにし、私はお兄ちゃんの制服を着て、教室へと向かった。
教室に入ると、既にスカーレットは着席していた。
私は彼女の隣にいき、早速新たな僕を演じることにした。
「すみません、お隣いいですか?」
前世から趣味で、様々な声の練習をしていた為、かなり良い感じの低音ボイスが出せているはず。
というか、お姉ちゃんに審査された。もうちょっと低くだとか、少し高くだとか。
よくよく考えてみると、お姉ちゃんは私を理想の男性キャラに仕立て上げようとしているのでは?
「どなた?」
スカーレットはじーっと私を見て、やっと出した言葉がそれだった。
「申し訳ありませんが、私の隣に座る方は決まっているので、遠慮してもらえますか?」
その隣が婚約者のアッシュ・グレイでない事を知っているので、少し嬉しく感じる。
「これは申し訳ありません。こちらはスカーレット・カラー様の事をご存知でしたので、つい。僕の名はセレス・コロールと申します。訳あって、というか半分興味本位で、学園にいるうちは男装しているので、くれぐれも御内密に」
スカーレットは驚いた表情をした。まあ、そりゃそうだ。
「昨日の今日で本当に医者に行った方がいいわよ」
「酷いよスカーレット」
私がそう言うと、スカーレットは小さく笑った。
「あなたの身長が高くて良かったわね。あと胸も」
身長に関しては男としたらそんなに高くはないと思うけど。百六十五だし。胸はわざわざお姉ちゃんが触れなかったのによくもまあ言ってくれたな。
お姉ちゃんの案で胸に革鎧付けてるからいつもより小さいだけやい。
てことを、昨日お姉ちゃんにした説明とともにした。
「あなたがいいのなら良いと思うけど。名前はそのままでいいの?」
「わざわざお父様とお母様が考えて付けてくれた名前だから、こんな事で捨てたりはしないよ。あ、それと何度も言うけど、本当に内緒にしててね。アッシュ様にもだよ」
「分かってるわよ。そんなに私の事が信用ならない?」
「ううん。信じてなきゃ話さないよ」
「そ、そう」
机に倒れ込んでいた為、上目遣いのようになったが、そのせいなのか、スカーレットはほんの少し照れてるようだった。
「僕に惚れた?」
「無駄に顔がいいから少し照れただけよ。そう簡単にアッシュ様への気持ちを無くしたりしないわ」
照れたのは否定しないどころか認めるんかい。
「あ、ごめん、ちょっと花摘みに行ってくる」
「始業時間には間に合うように」
「うん」
評価もらってめちゃくちゃ喜んでます!
ありがとうございます!
今後も作品を楽しんでいただけるよう頑張ります!
次話:明日