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新しい授業も続々と始まり、魔法実技の授業も今日から始まる。
「それでは皆さん、早速ですが二人一組になってください」
前世も今世も教師というのは二人一組が好きだなと思わず思ってしまう。
「セレス、組みましょう」
「うん。……あ」
「どうしたのよ」
そういえば、パールって私以外の友達っていないよね? どうしよう。
そう思い、パールの方を見ると、アッシュ・グレイとペアになっていた。
スカーレットもその事に気づいたのか、あまりいい顔をしていなかった。
だが私にとって、今のスカーレットの表情よりも、パールとアッシュがいつ接触したかが気になっていた。
「アッシュ様ですか? それなら私が廊下で迷っていたところを声かけていただきました」
「また迷ったの?」
「いつもの道は人だかりができていて通れなかったので」
あ、私のせいだ。
「それで、その、どんな人だった?」
「そうですね、寡黙ですが優しい方です。二人一組の時もすぐに声をかけてくださいましたし」
なんかすごいフラグ立ってる気がするんだけど。出会いもまんま同じだし。嫌な予感がする。
そしてその予感は的中し、パールはよくアッシュ・グレイと関わるようになった。
「また彼女はアッシュ様と……」
「スカーレット、大丈夫だから。今のところ声をかけているのはアッシュ様だから」
「私はその声すらかけてもらえないのよ」
スカーレットは目に見えて落胆していた。まだパールへの悪口的不満が出てないのが救いだ。
だけど私としても、この状況をなんとかしたい。
「ねえスカーレット」
「何よ」
「スカーレットは自分からアッシュ様をお茶に誘ったりした?」
「そういうのは男性から誘うものよ。女性からは決してしないわ」
「でも」
「大丈夫よ。大丈夫」
その言葉は、私に言っているように見せかけた、自分への自己暗示に聞こえた。
スカーレットが何も行動を起こせないなら、私が起こすしかない。
「パール」
「あ、セレス様。おはようございます」
「うん、おはよう。ねえパール、放課後よかったらお茶しない? 町に新しくできたカフェがあるんだけど、男だけじゃ入りづらくて」
そう言うと、パールは困った顔をした。
「すみません、実はアッシュ様からもそこに誘われてて」
一歩遅かった。スカーレットの事を気にしすぎてイベントのタイミングを見誤った。
どうしよう、これ、好感度イベントなんだよね。どうしよう……。おそらく、アッシュ・グレイはタイミングがずれただけで全てのイベントをこなしているはず。なら、このイベントは絶対阻止しないとまた──
「セレス様?」
「パール、それ断れないかな?」
「それは、その、承諾した手前難しいですね」
あ、だめ、だめだよ。私を突き放さないで。またあの光景を見せないで。もう、見たくないの。苦しんでほしくないの……。
「セレス様? セレス様!」
パールの大声で、真っ暗になっていた視界に光が刺した。
「大丈夫、行こうか。授業遅れちゃう」
私が力無い足取りで教室に向かおうとすると、パールに手を掴まれた。
「そのような状態でですか? セレス様、今酷いお顔ですよ。医務室に行きましょう」
私は医務室に連れて行こうとするパールを引き止めた。
「嫌だ。医務室に行ったら、パールは側から離れるでしょ。それは嫌だ、もう、苦しいのは嫌だ」
パールとの手が離れたら、アッシュ・グレイの元に行く。そうなれば、破滅への道が進んでしまう。それはもうやだ。脳にこびりついて離れないほど見たあの光景を、もう見たくない。
パールがスカーレットの破滅の原因になっている事実を受け入れたくない。
だから私は、パールの手を離さないよう手に力を入れた。