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見上げた二人の顔は、まあ性格が出ていた。パールは心配そうな顔、スカーレットは私が無事だと分かっているので、ご立腹な顔を浮かべている。
「いいから解きなさい!」
「いったた。無理だよ、その魔法をかける時に、解く条件を謝罪か時間にしたんだから。害なく強い魔法をかけるには、何かを条件にしないといけない事くらい知ってるでしょ」
そういうと、スカーレットは軽く絶望した顔を見せた。そんなになるならとっとと謝ればいいのに。
「それじゃあ、僕はこれでしつれ──」
「待ちなさい! こうなったら、あなたにも付き合ってもらうわよ」
「……え?」
「えっ」
私一応男なんですけど! 紛う事あり男なんですけど! パールを見なよ、私が女だって知らないから気まずい顔をしてるじゃん!
「えーっと、付き合ってもらうって具体的には……」
「この平民と二人にはなりたくないから、セレスも一緒にいるのよ」
「つまり三人で今日を過ごすって事?」
「ええ」
「ほ、本気ですか、スカーレット王女様」
「本気よ。分かっているわよね、セレス。私に逆らおうなんて思わない事よ」
この瞬間ほど、男装している事を後悔した事はない。
とりあえず剣をしまうために解放はされた。
「おうチビ、面倒なことに巻き込まれたな」
さっきまでの仕返しか、背中バシバシ叩かれて痛い。革鎧あってよかったと思うよ。
「あんたの姉さんちょっと頭おかしいんじゃない?」
「姉貴の性格ぐらい知ってるだろ。姉貴がキレたらあれくらいする。むしろ緩いくらいだ」
「僕は優しいから、怒らせることなんてなかったんだよ。はあ、謝れば済むのに、この強情姉弟は」
「なんだよ、俺は謝っただろ」
「時間すごいかけてたけど」
「ま、とりあえず手は出すなよ」
「出さないよ。そもそも欲情なんてできないよ。逆にあんたは出来るの?」
そう聞くと、顔を少し上に向けて考えているようだった。しかしすぐに、身震いしてこちらを見た。
「……うわ、お前が変なこというから姉貴の分まで想像しちまったじゃねえか。どうしてくれるんだ」
「最初に言ったのはそっちでしょ」
「ま、楽しんでこい」
最後に一発叩くと、愉快そうに離れていった。
◇◆◇◆◇
授業も終わってしまったので、とりあえずスカーレットの部屋に行くことになった。
最初はパールの部屋にするつもりだったが、スカーレットが狭いと一蹴したので、スカーレット部屋になった。
「とりあえず僕は服取ってくるよ。ついでにお風呂も入ってくる」
「何言ってるのよ。私達は服が脱げないのだから、セレスも着替える必要はないわ」
「え、つまりお風呂は?」
「たぶん、無しだと思います」
うそーん。汗かいてるのに? お風呂と着替えなし? そんな殺生な。
「汗ならタオルを濡らしていいからそうしなさい。ついでに私達のも持ってくるのよ」
「あの〜、もう謝っては? スカーレットもパールも嫌でしょ」
「嫌よ。たしかに私は知らなかったけども、謝る事でもないわ」
「私も、そういう態度の人には謝りたくありません」
「なによ、平民のくせに!」
「王女様だからといって、我が儘が許されるわけではありません!」
「あー! もう、分かった、分かったから! タオル用意してくる!」
どうして私がこんな目に……。
「はい、タオル持ってきたよ。僕はもう拭いたから、これは二人の。僕は寮母さんにスカーレットの部屋に泊まるって言ってくるよ。パールの事も言っとくから安心して」
スカーレットの部屋を出て行こうとすると、意外にもパールに呼び止められた。
「あの、セレス様の許可はちゃんと降りるのでしょうか? セレス様は特例で女子寮に住む事が許されているとしても、女性とのお泊まりは少々懸念されてしまうのでは?」
「うーん、そうだね。一つ聞きたいんだけど、パールは僕も一緒に泊まると多少なりとも警戒する?」
そう聞くと、パールは少し悩み始めた。
警戒するって言ってよ。そしたらあとはスカーレットを言いくるめるだけだから。
「あの、私からも一ついいですか?」
「良いよ」
「あの、変な事を言うとは重々承知なのですが、セレス様が現状一番好きな人はどなたですか?」
「一番好きな人? お姉ちゃん。お兄ちゃんも好きだけど、お姉ちゃんの方が甘やかしてくれるから好き」
私がそう答えると、パールは手を口元にやった。
もしかして、回答間違えた? 恋的な意味だった?
そんな事を考えたが、どうやらそうでもないみたい。だって、パールが小さく笑ったから。
「セレス様なら、二人で泊まっても心配なさそうですね」
「え、どうして? え? スカーレット分かる?」
「セレスはお姉さんとお兄さんの事を話す時、顔をふにゃって子どものように頬を緩ませるのよ。そんな顔を見せられて、害のある人間だなんて大抵の人は思えないでしょうね。平民、安心しなさい、セレスが女子寮にいられるそれなりの理由があるのだから」
ま、女だからね。
「そのようですね。引き止めてしまい申し訳ありません」
「気にしてないよ。それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
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