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私が叫ぶと、二人はハッとしたように剣を下ろした。
「一体何をそんなにいがみ合ってるの」
「いがみ合ってないわ! この平民の剣術がなってないから教えてあげようとしたのに、その前に私の剣術がなってないって言ってきたのよ!」
「話を誇張しないでください! 私の剣術とは異なるんですねと言っただけです!」
「パールとしては、スカーレットの剣術を見てどう思う?」
「そ、それは……」
「じゃあ、パールは自分の剣術とスカーレットの剣術、どっちが正しいと思う?」
「私は、自分の剣術を信じます」
「碌に剣術を学んでもいないくせに、よくも私の剣術が間違っているなんて言えるわね!」
「あなただってそう言ってるじゃないですか」
おうおう、ちょっと言葉を間違ったみたい。とりあえず
「痛っ!」
「いっ」
二人の頭を、刀身の平たい部分で軽く叩いた。
「はいはい騒がない。そんなに言うなら、パール、僕と一戦交えてよ」
「え?」
「僕はスカーレットの剣術を知ってるけど、パールの剣術は知らない。だから、判断材料がほしいんだ。安心して、攻撃はしない。ある程度流したら剣を奪って終わらせる。それくらい腕に自信があるから、遠慮せずきていいよ」
最初は躊躇っていたパールだったが、スカーレットの
「間違っていることを認めたくないのでしょう」
という余計な一言のおかげで、やる気になったみたいだ。
「いつでもいいよ」
「では、いきます」
私はパールの剣を数回流し、そろそろいいと思ったら、パールの剣を思いっきり叩き、地面に近づいたら足で押さえつける。そうすると、意外とスポって剣は手から離れる。女の子相手だとこれが出来るから楽なんだよね〜。
「おつかれパール。スカーレット」
「何かしら?」
自分が正しいという事を言われるとでも思っているのか、心なしか声が弾んで聞こえる。
「パールの剣術、どこも変なところないよ」
「えっ、嘘よ!」
「嘘じゃない。パール、この剣術はどこで習ったの?」
「父からです」
「お父さんの仕事は?」
「建築業です」
「それじゃあ、その前は?」
「冒険者ですけど……」
パールは一体何を言いたいんだって顔でこっちを見る。
「スカーレット、剣術を使う時、どういう相手を想定して教えられた?」
「人に決まっているじゃない。主に暗殺や裏切りなどから自分の身を守るための手段なのだから」
「そう。そして、パールの剣術は野生の魔物。冒険者がよく相手にするのは、人間じゃなくて魔物。そりゃ、国から認められるような凄腕の冒険者とかなら、対人の剣術も使えるだろうけど、それでも基本は魔物。だから、パールは何一つ間違ってない。そして、スカーレットも間違ってない。ただ、対抗する相手が違うだけ」
「でも、それなら今は私が相手なのだから、私の剣術が──」
自分の誤ちを認めたくないのか、反論しようとしてくる。そういう悪いところはよく似るんだから。
「なら、スカーレットは対魔物の剣術は使える?」
「そ、そんな機会」
「ないとも言えないよ。できないよね、習ってないから。それはパールも同じ。でもパールは戦えてた。素直に認めよう。無知は悪い事じゃない。むしろ、まだまだ学べる可能性を見つけられたのだからいい事だよ。
パールも、スカーレットが始めたとしても、それに乗っかって多少なりとも傷つけたんだから、そこは素直に謝ろう。スカーレットもだからね」
そう言ったが、パールはともかくスカーレットは納得していないみたいだ。
「はあ、仕方ない」
私は二人の手を持ち、握手をさせる。
「はい、もっとしっかり繋いで」
「一体何をするつもり?」
「いいからいいから」
スカーレットは訝しげな目を向けつつも、言われた通りにする。
『風よ、拘束せよ』
私がそう唱えると、二人の手は離れなくなった。というよりも、二人の手に流れる風圧のせいで、手が動かせないといった方が正しいか。
「ちょっと、なんなのこれ!」
「セレス様⁉︎ これはどういう──」
「二人が謝らないなら、しばらくこの状態。あ、明日には解けるようにしてあるから。この後授業とかないし、丁度いいでしょ。あ、剣は片付けてくるよ」
私は落ちている剣を拾って、元の場所に戻そうとしたが、スカーレットとパールに引っ張られ、行くことが出来なかった。
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