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──だめ、だめ、だめ、だめ、だめだめだめだめだめ!
また、王女様が亡くなった。
「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ。早く行くわよ」
「へ? あ、うん!」
また戻ってきた。学園に入学前の時期、王女様の破滅への道が開かれる時が。その証拠に、緋色の髪に緑目の女性が、私の目に写っている。
スカーレットは誤解されやすい性格。自分の芯がしっかりあり、それゆえに自分にも相手にも厳しい。そして、プライドが高い為、自分だけで物事を抱え込んで、周りを頼ろうとしない。彼女は本当は良い人だ。だけど、ゲームの悪役令嬢という立場のせいで、彼女は破滅してしまう。
「セレス、顔はしっかりと上げて堂々と歩きなさい。平民に舐められるわよ。貴族は平民に舐められるのではなく、頼りになれる存在でなきゃいけないのよ」
「うん。そうだよね」
今の私はセレス・コロール。灰色の髪に青目と、日本人とはとても思えない容姿で、コロール侯爵家の次女だ。ゲームでは、スカーレットの取り巻きという形で登場している。
前世の私は……あまり思い出したくないな。
「スカーレット、たとえ何が起ころうとも、誰かと接する時は柔らかくね。納得いかないかもだけど、これが一番人と打ち解けられるから」
「何を言ってるのよ。私は王女よ、上に立つ人間なのだから、親しみではなく威厳を持って接するべきよ。むしろあなたは威厳がなさすぎるのよ」
「死んだら意味ないじゃん」
「何か言いまして?」
「ううん、別に。とりあえず頭の隅にでも入れといて。私は部屋に行くね。それじゃあまた明日」
「あ、ええ、ごきげんよう」
私は部屋に入り、メイドと協力して部屋を整える。それが済んだら机の上にノートを広げ、今までやった事と結末をとにかく思い出せるだけ書き出した。
「……攻略対象に接近してもだめ。スカーレットを四六時中監視するのも失敗」
そもそも四六時中なんて不可能だし。
「やってないのは、主人公と仲良くなる事か」
また失敗したら……。そんな考えが頭をよぎるが、私の足りない脳ではこれ以上の事が思いつかない。
「とりあえずやってみよう。やらなきゃ分からない。大丈夫、今度こそうまくいく!」
そう、思っていた。しかし結果はいつもと同じになり、私はまたここに戻ってきた。
思いつくことは全てやった。まだ私がやってないことなんてないはず。絶対に救出ルートがあるはず。だからまたここに戻ってきた。
──何だ? 何が足りない? 何を見落としている?
「どうしたのよ、そんなに思い詰めた顔をして。何かあるなら相談しなさい」
よく言うよ、自分は相談しない癖に。まあ、スカーレットの気持ちはなんとなく分かるから、あとは主人公の気持ちさえ聞ければルート開拓できそうなんだけどなぁ。
……主人公の気持ちを聞ければ、か。
「なるほど! そうか! まだあった、あったよ!」
「え、え? ちょっと、本当に大丈夫なの?」
「うん、ありがとうスカーレット。おかげでなんとかなりそうだよ。てことで、私は失礼するよ! じゃあね!」
「じゃ、じゃあね?」
私は急いで一番頼りになりそうな人を訪ねる。
「お姉ちゃん、私をイケメン男子にして!」
部屋を開けた後にそんな意味の分からない事を言われたお姉ちゃんは、黄色の目を点にし、灰色の髪を弄っている。
「ちょっとそこに座ってて。お姉ちゃん頭おかしくなったみたいだから、一旦寝てくる」
「大丈夫、お姉ちゃんの頭は正常だから協力して!」
さらに混乱したお姉ちゃんを落ち着かせ、私はゆっくりと話した。
「とりあえず、私が正常だということは分かった。でもどうして、突然男になりたいって言い始めたの?」
主人公を落として、スカーレットの破滅を阻止する為です!
なんて言えるわけない。さて、どう言うか。
「私ってさ、人から見たらちょっと変わってるというか、貴族の女性とはかけ離れてるみたいだから、一旦男性の立場になって、どのような女性が好ましいのかを調べてみたくて。学園に入学したから、心機一転的な。ほら、お姉ちゃん弟欲しいって言ってたし、お兄ちゃんの身だしなみを整えるの好きじゃん。だから、頼りになるかなって……」
お姉ちゃんは私を一瞥した後、新しいおもちゃを見つけた子どものような目をした。
「男性の立場になりたいってことは、女性だって気づかれるのはできれば避けたいよね。よしよし、このお姉ちゃんが話をつけてきてあげよう。ちょっとここで待ってて。お菓子とか食べてていいから」
お姉ちゃんは意気揚々と部屋を出て行った。
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