第13話 常勝の王子
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やがて15歳になったケントは王子が歩むレールに乗って軍に入った。安全な場所で高級将校として修業を積むルートだ。
これは戦史大好きであったケントにはたまらないことであった。
軍人であるから戦場で命を落とす危険もあったが、そこは王子様。いつも安全な後方で指揮をするから、戦争の悲惨さや残酷さも感じずにいた。
この異世界の文明レベルは、ちょうど16~17世紀のヨーロッパと同じくらい。火縄銃が発明されたとはいえ、まだ実践レベルでは十分に主力武器としては普及しておらず、剣や槍による近接戦闘が主流であった。
戦いの主力は槍や剣で武装した歩兵。同じく剣か槍で武装した騎兵。これに弓兵と火縄銃を装備した銃兵が支援兵種として加わる。
銃が発明されてからもう50年になるそうであるが、その性能は一向に上がっていない。その理由はもう一つの長距離攻撃のせいであった。
それは魔法兵団の存在。
言葉にするとさらっと受け取れるが、健斗の記憶があるケントには、実に受け入れるのに時間がかかるものであった。
魔法による攻撃。剣と魔法のファンタジーにはあまり興味がなかったから、人間の手のひらに火の塊が出現し、目標物にあたって爆発するには驚いた。
こんなチートな攻撃法があるのならば、銃も大砲も必要がない。
魔法攻撃には主に光の矢で敵を射抜く『光弾』。火の塊で敵を焼き尽くす『炎弾』。そして石礫を敵にぶつける「石弾」の3つ。
さすがに大爆発で町ごと吹き飛ばす魔法や敵を眠らせるような魔法は使われない。
それに魔法兵団にも弱点はある。一つは魔法が使える人間はごくわずかであること。それはもって生まれた才能で決まるために、魔法兵を増やすことはできない。
2つ目は魔法の連発回数には制限があること。よく訓練された魔法兵で5連発が限界。その後は人にはよるが少なくとも30分以上の休息が必要となる。戦いが長引けば長引くほど、魔法兵団は疲弊し、戦力とならなくなる。
それでも不思議な力で敵を殺す魔法の脅威は、戦場では威力を発揮し、魔法兵団がいるだけで味方なら安心感。敵なら脅威となる。
そんな要素もある異世界であるが、ケント王子は幼少から学ぶ帝王教育。特に兵法に没頭した。元々、この方面の知識はオタク級レベルであったから、教える教官も舌を巻くほどであった。
そして先日のアルトリア帝国との戦争。
国王より討伐軍司令官に命ぜられたケントは、2万の軍を率いて先にアルトリア領内に侵入。プルデンシャル湖畔へと到達した。
アルトリアはこの遠征軍を撃つべく、主力軍4万を動員。リーグラード軍を徹底的に叩きのめすことを目標とした。
プルデンシャル湖畔はリーグラード西方のアルトリア領にある森林地帯にある。プルデンシャル湖と森に囲まれた場所で、湖畔の周回する道から平原へと抜けて行ける。
一目見て戦史オタクだったケントは、この地形がトラシメヌス湖畔と同じことに気づいた。
トラシメヌス湖畔はローマ軍とハンニバル率いるカルタゴ軍が戦った場所である。
待ち伏せ作戦としては、完璧なもので歴史に燦然と輝いている戦いだ。
3万のローマ軍は誘い込まれ、3方向から包囲されてほぼ全滅と言う憂き目にあった戦いである。
(湖畔の道を進めば、プルデンシャル平原に出る。ここは大軍の会戦場所としては適している……)
普通に考えれば湖畔を通って平原へ進み、そこで会戦を挑む。先に到着すれば有利な場所に陣取れるから、急ぎで移動すると考えるはずである。
ケントは2300年前にハンニバルがローマ軍に仕掛けた戦いを再現しようとした。
2万の軍を湖畔の道を進ませ、左手にある丘陵地帯へ潜ませたのだ。
夜にプルデンシャル湖畔を移動中と聞いたアルトリア軍はそれを追撃。
朝もやの中、平原目指して湖畔の狭い道に進入した。
濃い霧で前が見えず、先頭から後ろまで10キロにも及ぶ進軍である。
そして先頭部隊はリーグラード軍とぶつかる。
アルトリアの指揮官はこの軍を最後方部隊だと勘違いした。
思いのほかリーグラード軍の進軍が遅く、追いついたのだと考えたのだ。
しかし、これはケントの策略。
その軍はアルトリア軍を進ませないように配置した壁であった。
同じように後方も遮断する。
そして丘陵地帯から弓兵、銃兵、魔法兵による一斉射撃を命令する。
前と後ろを阻まれ、左手の高台からの遠距離攻撃。逃れようにも右手は湖。アルトリア軍は大混乱に陥った。
30分にもわたる執拗な遠距離攻撃を行ったケントは、副司令官のカイゼルに本軍を突入させるように命令した。
この時点でもはや戦いは完全なワンサイドゲーム。戦闘ではなく殺戮と化した。かつてカルタゴ軍がローマ軍3万を全滅させた戦いの再現である。
4万のアルトリア軍は完全に溶けた。リーグラード歩兵の槍に貫かれ、ある者は湖に落ちて溺れ死んだ。大量の人間が湖に追い落とされたので、泳げるものも下敷きになり溺れ死ぬしかなかった。
精強で聞こえたこの4万を失ってアルトリア帝国は完全に戦意喪失。
アルトリア皇帝はケントの休戦の呼びかけにすぐ応じ、リーグラード王国に有利な条件で講和条約を結んだのであった。
第14話「イケゲス王子の追放」は20時頃更新です。




